恋の囚人番号251107都合いい女

「クリーニング出しといてよ」

事務所をあとにするとき
濡れたジャケットとワイシャツと
一万円札を渡された。

そりゃそうだ、仰せのままに。
公衆の面前でお酒ぶっかけた
張本人ですもの、私。
ヒャクパー加害者ですもの、私。

「勿論だよ。でもお金はいーよ。
私のせいだもん」
「ばーか。
子どもはお小遣い大事にしてアイスでも買え。」
鼻先で一蹴された。

「そんでさ、次の週末持ってきて。夕方」
「来週末って⋯開港祭りの花火大会??」
「上でBBQすっから。水着な。」

情報少なっ。

でも、また会える。
まだ会える。

「銀丈くん」
「あ?」
エレベーターに乗り込み見上げる。
「お酒ぶっかけてごめんね。」
「なに、今ごろ。遅っ」
唐突だったらしく、呆れて笑う。

「カウンターの人が好きな人?」
「え?だれ?⋯あぁ!違う。系列の店のキャスト」

げ。

何でもない脇役の女があんな美女とは⋯。
ラスボスは一体どんな絶世の美女だろう。

「お前アレにやきもち焼いてやらかしたの?」
「違っ⋯うん。そうかも。
ほんとごめん。」
誤魔化せなくて、
恥ずかしいやらなんやらで俯いた。

「前途多難だな」
そう言って銀丈くんは、
少し背中を丸め覗き込むと
顔を近づけキスをした。
「頑張れよ」
丁度エレベーターは到着した。
扉が開くと同時に、
静寂は断たれ、喧騒と重低音が流れ込んできた。

光と音の中に吸い込まれていく銀丈くんの背中が
遠ざかっていく。

「私、みんな蹴散らすから!!!」

濡れた服の入った紙袋を抱きしめ、
EXITに向かう後ろ姿に叫んだ。
銀丈くんは、
振り返らず右手を上げヒラヒラさせると
暗闇に消えていった。