自分を好きになる話

 何を言おうか考えながら、教卓に立って前を向い

た。
 「亀山小学校から来ました。野々原しずくです。

しずくって呼んでください。好きな食べ物はオムライ

スです。よろしくお願いします。」

 我ながら平凡すぎる自己紹介だけど、意外とこうゆ

うのが一番うまくいったりする。ほら、みんなこの子

とは仲良くできそうって顔してる。

 下手に面白っぽくするより、こっちのほうがずっと

いい。きれいな歩き方を意識しながら席に戻った。

 そのあとは、美空が、
 「しずくと同じで、亀山小学校から来ました!平川

美空です!美空って呼んで欲しいです!敬語はなし

で!好きな果物はいちごでーす!よろしくお願いし

まーす!!」

 なーんて、かわいい自己紹介をしていた。まあ、

実際可愛いんだけどね!

 美空はよそ行きの顔が得意で、よく男がそれに引っ

かかる。

 そんなこんなで、出席番号四十番まで自己紹介が

終わって、次は係決めが始まった。

 「したい係のところにネームカードをはってくだ 

さい。」

 担任がそう言うと、みんな一気に席を立って友達と

相談し始める。私も後ろを向いて美空に話しかけた。

 「何係がいいー?」

 「うーん、総合係かなー?なんか楽そうだし、五教

科は嫌じゃん?」

 「じゃあそーしよ」

 私と美空は二人で総合係をすることにした。ネーム

カードを黒板にはって、席に戻ってみんなが座るのを

待つ。 
 
「しずくってなんか人生つまんなそうだよね〜」

 なんて、美空が失礼極まりない事を言うから、

「急にどうしたのさ。楽しくて忙しい人生ですけど?」

 って言った。そしたら、美空はちらっと少し上を見

た後、もう一度私と目を合わせて、

 「することはちゃんとするけど、なんか、心ここに

あらず?みたいな。」

 って、よくわからないことを言ってきた。

 「なにそれ。好奇心旺盛純情派ヒロインなんだが。」

 「嘘つけ。できればサボる怠惰派代表脇役でしょ?」

 「はぁ?そっちこそ。裏表激しいぶりっ子担当悪役

のくせに。」

 「あんたよりずっとモテてるから。ひがんでくんな

バーカ」

 「この顔面詐欺性悪女め」

 「顔面も性格も平凡なやつに何も言われたくなぁい」

 「性格に難しか無さすぎ女」

 なんて、特に意味もない悪口大会を開いていると、

 「じゃあ、国語と家庭科と総合を希望した人たち

は、廊下に集まって誰が譲るか決めてきて。」

 と、先生から指示が出された。

 どうやらこの三つの係は定員が二人なのに、総合は

四人、家庭科と国語は三人ずつ立候補してしまったら

しい。

 (まじか〜。)

 つまり、国語と家庭科から一人ずつ、総合から二人

の計四人が第一候補を諦めないといけない。

 美空と一緒に廊下を出ると、大人しそうな眼鏡の女

の子と、背が小さめの肌が白い女の子がいた。

 きっとこの子たちと、総合の係を譲り合わなければ

いけないのだ。

 とはいっても、ここを諦めてしまうと、残っている

のは技術と英語の係。お兄ちゃんによると、どちらも

先生が苦手なタイプだからできればやりたくない。

 技術の先生は六十歳を超えていて、頭がところどこ

ろ光るおじいちゃんで、考え方が古くて、色々厳しい

らしい。技術はあくまで主要教科ではないのに、宿題

とかたくさん出してくるから困ると言っていた。係に

も仕事をよく任せるらしいから、これは絶対に避け

たい。
 英語の先生は、とてもではないけど二十代には見え

ない、実年齢二十六歳の老けて見える女の先生だ。

 この先生は、隣のクラスの副担任だから知ってい

る。怒るとネチネチ長いタイプだから、要注意だ。