「わー。すごい雨。」

 「ほんとだね。」

 階段を降りて、今は校内玄関で外を見て絶望してい

るところだ。

 彼女は雨が反射してすごく神秘的に見えた。梅雨の

嫌味な雨も、彼女を美しくする一つの宝石となってい

るんだ。

 「きれい」

 「え?」

 声に出てた。つい、とてもきれいだったから。

 「え、?あ、ごめん。…なんでもない」

 「そう。じゃあ行こう。」

 「う、うん。」

 あまり興味がないらしい。そのまま傘をさして私を

入れようとしてくれている。

 「ありがとう。」

 お礼を言って傘に入る。彼女らしい、透明な、何一

つ汚れなどないきれいな傘だった。

 他の人のビニール傘と、きっと何も変わらない。

でも、彼女が持っだけで、全くの別物だ。

きっとこういうのを、豚に真珠の反対っていうんだ。

もちろん逆の意味で。綺麗すぎて、ビニール傘だと

わからない。聡明な目で、私の目をまっすぐ見る。

 そして、そのまま歩き出したから、私もついて歩

いた。

 ほぼ無意識で、自分の手を、彼女の右手、傘を持っ

ている方の手に伸ばした。

 だが、途中で止めた。この子とは、傘を持つのを

交代する必要がない。

 身長差がないから。私より高いわけではないけれ

ど、私より低くもない。出しかけた手を引っ込めた。

 彼女はたぶん気づいていない。

 「癖なの?」

 「え?」

 「傘、今持とうとしてたんじゃないの?」

 気づいていたらしい。そして、それが癖だとバレた。

 私はいつも傘を持つから。いつも、いわゆる男子役。

かわいいよりかっこいいと言われる。そんな、残念で

可愛そうな子。

 「あ、うん。そうなんだ~。あはは、いつも持つ

から、癖になっちゃった。」

 「私と身長同じぐらいだもんね。」

 「うん。」

 そっか。私はこの美少女と同じ身長なんだ。

 こんな美少女も、私ぐらい背高いんだ。

 そう思うと、少しだけ気持ちが軽くなって、なんだ

か不思議な気分になった。それで、なんとなく、高身

長のことどう思ってるのか知りたくなって、きいて

みた。

 「ねえ。あのさ、えっと...美少女ちゃんはさ、自分

の高身長のことどう思ってるの?」

 「美少女ちゃんって...あははっ私の名前は桜庭美羽

《さくらば みう》だよ。みんなの名前覚えらんない

よね。」

 「う、うん。」

 笑顔を見たのは二回目だけど、ものすごい破壊力。

本当に綺麗にわらって、どうしてももう一度見てみた

くなる。

 あと、やっぱり名前まで可愛い。天使って感じの

名前。私がじっと見つめてたら、こっちを向いた美羽

ちゃんと目が合った。

ドクンドクンって心臓の音が聞こえた。

私、緊張してるんだ。

美羽ちゃんがゆっくりと口を開く。