浜辺には変わらぬ波の音が響いていた。

 
空には幾つもの星が散りばめられ、夏の夜を涼やかに照らしている。

 
砂浜に腰を下ろし、膝を抱えて海を眺めていた。
 

胸の奥に重いものが居座っていて、それを吐き出すことはできなかった。
 

それでも、彼と過ごす時間はなによりも大切で、だからこそ普段通りにしていたかった。

 
「…隣、いいか?」

 
聞き慣れた優しい声が耳に届く。
 

振り向くと、彼が立っていた。
 

薄暗い月明かりの下でも、その穏やかな表情ははっきりと分かる。

 
「はい。どうぞ」
 

小さく微笑み、隣を手で示した。

 
彼はいつものように、砂に音を立てて腰を下ろす。
 

肩が少し触れるくらいの距離。