砂浜に降りると、夏の匂いが一気に広がった。


湿った砂の熱気がサンダル越しにじりじりと伝わり、潮風が頬を撫でていく。


空は透きとおるように青く、頭上では入道雲が堂々と立ち上がっている。


海辺にいる人々の笑い声や、波打ち際ではしゃぐ子供の声が混じり合って、ひとつの夏のざわめきとなって響いていた。


けれど、私の耳にはそれが遠く感じられた。


視線はただ、果てしなく広がる水平線に向かっている。


青と白と光が重なり合うその景色は、どこまでも広いのに、どうしてか胸を締めつける。


 
「…おじいちゃんたちも、この海を見てたのかな」


波が寄せては返すたび、きらきらと光の破片が散り、遠くでは大きな貨物船がゆっくりと進んでいく。


上空には旅客機が一機、白い軌跡を曳きながら飛んでいた。


今を生きる人たちが、当たり前のように海を越え、空を越え、遠い国へと行き来している。