救護所に戻ると、中はすでに負傷者であふれていた。


包帯に血がにじむ人、痛みにうめく人、泣きながら家族を探す人。

 
看護師たちは必死で走り回り、キクさんも汗だくで薬や布を運んでいた。

 
「美緒ちゃん! 無事だったのね!」
 

キクさんが駆け寄ってきて、両手をぎゅっと握った。


「…はい。勇さんが、助けてくれました」
 

声が震え、目に涙がにじんだ。


キクさんは勇さんに深く頭を下げる。
 

「本当に…ありがとう。あの子が帰ってこなかったらと思うと……」

 
彼は軽く首を振り、
 

「俺は、当然のことをしただけです」
 

とだけ答えていた。

 
その言葉を聞きながら、胸の奥で熱いものが広がっていくのを感じた。


 
助けられた安堵だけじゃない。


彼のまっすぐさ、そして揺るぎない強さに、心を強く揺さぶられていた。