「弟さん、可愛いですね」


「まあな。…そういえば、お前は兄弟とかいるのか?」


「…いないです」


彼は少し間を置き、静かに言った。


「そっか…だから、こうして誰かと一緒に星を見ると、守ってあげたくなるんだろうな」


胸の奥がぎゅっとなるのを感じ、波の冷たさで少し手を握りしめる。


しばらく黙って星を見ていた彼が、ふっと私を見て、微笑んだ。


「…なあ、美緒って呼んでいい?」


「はい…」


「俺のことも…下の名前で呼んでほしい」


 私は驚き、胸がきゅっとなる。


「えっと…勇、さん、ですか?」


「堅苦しいから、勇でいいよ」


「いや、でも…私の方が多分年下ですし、呼び捨てはちょっと…」


私がそういうと彼は笑って、「何歳?」って聞いてくる。


私が「20歳」と答えれば、「あー、俺の方が上だわ〜」と頭を抱えていた。


「俺、来月23歳になるんだよ」


「そうなんですね」


「まあ、美緒が呼びやすいように呼んでよ」


「…はい」


ぎこちないけれど柔らかい呼び方で互いを呼び合うようになり、二人だけの距離は少しずつ近づいた。


波の音と夜風が、二人を優しく包んでいた。