そんなとき、砂の上をかすかに踏む音が聞こえた。


振り返ると、軍服姿の神谷勇が、少し遠慮がちに立っている。


大人の落ち着きと少年のあどけなさが混ざった横顔に、思わず息を呑む。


彼は一歩、また一歩と近づき、砂の上で立ち止まった。


波の音だけが二人の間に流れる。


私は少し緊張しながらも、勇が近くにいる安心感を感じていた。


「…隣、いいか?」


彼がぽつりと声をかける。


私が小さく頷くと、彼はそっと砂に腰を下ろした。


二人はしばらく黙ったまま、星空を見上げる。


「…よく、ここで星を見るの?」


沈黙を破ったのは彼だった。


「はい…」


彼は「ふーん」というと、また口を開いた。


「俺も。小さいころから、弟と一緒によく見てたんだ」


「弟さん…」


「うん。歳は…俺よりずっと下で、優(まさる)って言うんだ。ほら」


そういうと彼は1枚の写真を見せてくれた。


擦り切れた写真に映るのは、彼と小学生くらいの男の子。


「こっちが俺で、こっちが優。にいちゃん、にいちゃんって呼んでさ…」


波の音に耳を澄ませながら、静かにうなずく。