「しおんちゃん?」
「どうして、そんなこと言うの? なんでわたしなの?」
疑問からなのか。不安からなのか。自分が置いていかれていることへの不満なのか。
いろんな気持ちが、しおんの中でぐるぐる回っています。
それを包もうとするような、みどりのやさしい声。
「なんでって……それは、しおんちゃんに力があるからかな。特別なんだよ、しおんちゃんは」
「特別って、どういうこと?」
「長老。彼女に魔法の力があるかどうか、確かめられます?」
「わかった」
すると長老は、一度部屋の奥へ引っ込んでから、大きな赤い石を持って戻ってきました。
しおんが両手でも持てなさそうなぐらいの大きさの石は、机の上に置くとドンと音がします。
「そなた、名前は?」
「……しおんです」
「シオンか。これにさわってくれないか」
長老に言われるがまま、しおんは手を伸ばします。
***
【パズル】
石の表面には数字が描かれているぞ!
足して100になるように数字をえらぼう!
***
(……あったかい)
長老に言われたとおりにしおんが石をさわっていくと、石がほんのちょっとだけ白く光りました。
「この石が光るってことは、しおんちゃんが魔法の力を持ってるってことなの。そしてあたしが知っているかぎり、この力を持ってる日本人はしおんちゃんだけ」
「本当に?」
「うん」
みどりは、自信たっぷりに答えます。
「そしてしおんちゃんの場合、その力はピアノの演奏に気持ちを込めることで、魔法になるんだ。日本人にはあまり効き目がないから、今まで誰もわからなかったんだと思う」
でも、やっぱりしおんは、信じきれません。
(わたしが特別なんて、そんなこと……)
カーン!
カーン!
その時、外から学校のチャイムのような音が聞こえてきました。
しおんは、びっくりしてまわりを見回します。
「何!?」
「これは魔物が攻めてきていることを知らせる合図じゃ。ここ数日攻めてこなかったのだが……」
「長老、あたしも出た方がいいですか?」
「いや、グリーンは街に残って、シオンを助けてやってくれ」
そう言って、長老は玄関のドアを開けて外へ出ていきます。
たくさんの兵隊さんが道を通り過ぎていくのが、開いたドアからしおんにも見えました。
「え? どういうこと、みどりちゃん?」
「魔物たちが攻めてきてるの! しおんちゃん、ごめん! ぶっつけ本番だけど、ピアノ弾ける?」
みどりは返事を待たずに、またしおんの手を引っ張って連れ出していきました。
***
【迷路】
森を抜けて、ステージのある場所まで戻ろう!
だけど兵隊さんがたくさんいて、いくつかの道は通れないぞ!
***
来た道を戻っていきますが、さっきとはなんだか様子がちがいます。
(人が全然いない……みんな魔物が来たから、家やお店に閉じこもってるんだ)
しおんがすれちがうのは兵隊さんばかりです。
一人だったり集団だったり、剣を持ってたり槍や弓を持ってたり。共通するのは、みんな重々しいふんいきだということ。
兵隊さんたちを見ているうちに、しおんはどんどん不安になっていきます。
「ねえ、攻めてきてるって、この街が危ないってこと?」
「わからない。向こうにどんな魔物がどれだけいるかにもよるけど……もしあたしたちも知らない強い魔物が出てきたら、あっという間にやられちゃうかもしれない」
みどりは、しおんが見たこともないようなまじめな顔つきをしています。
(みどりちゃん……いつも楽しそうな顔してるのに)
「……平気なの?」
「そうならないために、しおんちゃんにがんばってもらうの」
しおんはみどりに連れられ、あの野外ステージのような場所まで戻ってきました。
でもさっきとちがい、ピアノをかこむように兵隊さんが何人か立っています。
「これから、ケガした兵隊さんがどんどんここに運ばれてくる。その人たちに対して、ピアノを弾いてほしいの」
「どういうこと?」
「しおんちゃん。座って」
みどりに言われるがまま、しおんはピアノの前に座ります。
「しおんちゃん。あなたが弾くピアノの音には、ケガを治したり、体や心の疲れを癒やす効果もある」
「それってまるで」
「魔法みたい、って思ったでしょ。本当に、回復の魔法と変わらない」
(またみどりちゃん、わたしの考えを先回りして……)
もうすっかり、びっくりすることに疲れたしおん。みどりの声に、耳をかたむけます。
「あっ、回復をする魔法はちゃんとあるよ。ただ、使える人はそんなに多くないし、ゲームやアニメみたいにすぐ人を元気にしちゃうとかはむりなの。生き返らせるとかもってのほか」
「魔法、なのに?」
「魔法にだって、できないことはあるの。……でも、しおんちゃんのピアノ演奏によってもたらされる力は、回復の魔法の数十倍もの力がある。あたしが感じたんだから、まちがいない」
自信を持てと言わんばかりに、自分の胸をたたくみどり。
「転校してきたつぎの日に、初めてしおんちゃんのピアノを聴いた時、あたしの体が反応したの。体力が復活して、気持ちが安らぐのを感じた」
今まで言われたこともない言葉を受けて、しおんは自分の手とピアノを見比べます。
「そのあとも何回か聴いたけど、まちがいない。ほかの子の演奏も聴いたけど、反応したのはしおんちゃんのだけだった。だからわかったの。言い伝えの『救いの子』って、そういうことなんだって」


