…………
「……えっ? 何、これ……?」
気づくと、しおんの目の前には、信じられない光景が広がっていました。
(どうして? わたしは、音楽室でピアノを弾いてたはずなのに)
しおんの髪と同じように黒いグランドピアノは、変わらず目の前にあります。みどりも、その横に立っています。
でも、それ以外は何もかも変わっていました。
音楽室の白いかべも、そこにかかっている昔の音楽家の顔も、黒板もホワイトボードも机もいすもありません。天井も無くなっていて、上を見ると太陽がかがやいています。
そしてかべの代わりに、しおんには森が見えました。
左には、色とりどりの実をつけた木々が生えています。
右の方は広場になっていて、その向こうに家が並んでいます。
そして床も、木から石に変わっていました。
「どこ、ここ?」
しおんは、野外ステージのような場所にいたのです。
「ごめんね、しおんちゃん。かってに連れてきちゃって」
そのとき、みどりのやさしい声がしました。
しおんと違い、びっくりしたりあわてているようには、まったく見えません。
「みどりちゃん……?」
しおんが立ち上がって、みどりに近づこうとすると。
「グリーンちゃん! おかえり!」
こんどはみどりよりも背の高い女の人が、きれいな金髪を風にたなびかせながら、みどりへ向かって走ってきました。
「ただいまです! ミッション、クリアしてきました!」
みどりはその人に向かって、とてもうれしそうに笑います。
「じゃあ、もしかしてその子が?」
「はい、『救いの子』です!」
みどりは右手で、しおんの肩をぽんとたたきました。
すると、あとからやってきたたくさんの人が、しおんのところに集まってきます。
「なるほど……」
「かわいらしい子だ」
「本当にこの子が?」
男の人も女の人も、子どもも大人もみんな、しおんに目を向けてきます。
見た目はいろいろだけど、かっこいい、かわいい人ばかり。
(何、何? 外国の人みたい……)
「ねえ、みどりちゃん、どうなってるの?」
「うん、説明しないとね。えっと……とりあえず、長老のところ行こうか」
そう言うと、みどりはしおんの手を引いて歩き始めました。
***
【迷路】
森を抜けて、街を目指そう!
***
迷路みたいに入り組んだ道を歩くにつれて、だんだん周りの建物が増えてきました。
でも、大きなビルとかはありません。しおんの通っていた小学校もありません。
あるのは、せいぜい2階建ての家とか、お店っぽいものぐらいです。それもみんな木でできています。
(なんだか、おとぎ話の中みたい。日本じゃないよね……?)
「ここはね、日本じゃないの。しおんちゃんや、クラスのみんながいる世界とは、ちがう世界」
しおんの心を読んだかのように、みどりが話しかけてきます。
「ちがう世界?」
「絵本とかって、よくこんな感じの世界を舞台にしてるよね。たまたまなんだろうけど、びっくりしちゃった」
「みどりちゃんは……じゃあ、ここの世界の人、なの?」
「うん。あたし、魔法使いなんだ」
(魔法!)
「あっ、おどろいてる。まあそうだよね。でも、この世界には、魔法というものがあって、みんな当たり前に使ってる」
そう言うとみどりは、しおんに向かって小声で何かつぶやきます。
すると、2人のあいだに透明なかべが急に出てきました。
(わっ! アニメみたい)
「これぐらいなら、この世界の人はみんなできるよ。上手い人だと、一度に何枚もかべを出したりもできるんだ」
「そうなの?」
「うん。あ、もしかしたら、しおんちゃんも練習すればできるのかも。しおんちゃんは『救いの子』だから」
(『救いの子』――さっきも、みどりちゃんがわたしのことをそう言ってた)
「それって、どういう……?」
「うん。それもちゃんと話すよ。ほら、ここが長老の家」
みどりが指さした先には、ほかの家よりも一回り大きな家がありました。
「長老! 『救いの子』を見つけてきましたー!」
「おお、入りなさい」
家の中からは、明らかにおじいさんと分かる声が聞こえてきます。
みどりは勢いよくドアを開け、しおんを中に入れました。


