八月の夜、窓を開けると生ぬるい風がカーテンを揺らした。
蒼海はテーブルの上のグラスに氷を落とし、音を聞きながら瑛菜の帰宅を待つ。
仕事で遅くなると聞いていたけれど、時計はもう二十二時を回っている。
――大丈夫かな。そんな心配は、以前の自分にはなかった感情だ。
玄関の鍵が回る音。
「ただいまー…ごめん、遅くなった」
少し疲れた瑛菜の声に、思わず「おかえり」と返す。
その瞬間、彼女の頬がふっと柔らかくなる。まるで、それだけで報われたみたいに。
食事を温め直しながら、蒼海は少し迷った末に口を開く。
「……瑛菜、うちに来てから、無理してない?」
「え、どうして?」
「だって、仕事も大変そうだし……私のせいで疲れてたら、嫌だなって」
瑛菜はスプーンを置き、真っ直ぐに蒼海を見た。
「逆だよ。蒼海と一緒にいるから、頑張れるの」
小さな声だったのに、その熱は胸の奥に深く染み込んでいった。
食後、二人でベランダに出る。街灯と遠くの花火の音。
瑛菜が隣で、ぽつりと言葉を落とす。
「いつか、別々になる日が来ても……私、今日のこの夜のことは絶対忘れないと思う」
突然の言葉に返事ができず、ただ隣の手を握る。
言葉を重ねなくても、流れていく時間が答えをくれる気がした。
夜風が、夏の匂いと少しの切なさを連れてくる。
蒼海は心の中で、ひとつだけ願う。
――この日常が、もう少しだけ続きますように。
蒼海はテーブルの上のグラスに氷を落とし、音を聞きながら瑛菜の帰宅を待つ。
仕事で遅くなると聞いていたけれど、時計はもう二十二時を回っている。
――大丈夫かな。そんな心配は、以前の自分にはなかった感情だ。
玄関の鍵が回る音。
「ただいまー…ごめん、遅くなった」
少し疲れた瑛菜の声に、思わず「おかえり」と返す。
その瞬間、彼女の頬がふっと柔らかくなる。まるで、それだけで報われたみたいに。
食事を温め直しながら、蒼海は少し迷った末に口を開く。
「……瑛菜、うちに来てから、無理してない?」
「え、どうして?」
「だって、仕事も大変そうだし……私のせいで疲れてたら、嫌だなって」
瑛菜はスプーンを置き、真っ直ぐに蒼海を見た。
「逆だよ。蒼海と一緒にいるから、頑張れるの」
小さな声だったのに、その熱は胸の奥に深く染み込んでいった。
食後、二人でベランダに出る。街灯と遠くの花火の音。
瑛菜が隣で、ぽつりと言葉を落とす。
「いつか、別々になる日が来ても……私、今日のこの夜のことは絶対忘れないと思う」
突然の言葉に返事ができず、ただ隣の手を握る。
言葉を重ねなくても、流れていく時間が答えをくれる気がした。
夜風が、夏の匂いと少しの切なさを連れてくる。
蒼海は心の中で、ひとつだけ願う。
――この日常が、もう少しだけ続きますように。



