「お姉さん、なにしてんの?」

(げっ!こんなどこでナンパ!?)

 ここはオフィス街。土曜日で人も少なく、ナンパには敵していない。他の場所でやって欲しい。専務はまだ電話中でここを離れることはできない。

「ねぇ、飯行かない?1人なんでしょ?」
「人を待ってますので。」

 仕方なくその場を離れても、男は諦めずに着いてきた。

(なんなのよ!)

 ひたすら無視して歩き回っていると、ぐいと手を引かれた。顔を上げると、スマホを手に持って電話をしている専務と目が合った。

「……はい。その件はそのまま進めてください。はい、お願いします。」

 困っている時に助けられてしまうと、簡単に心が揺らいでしまう。専務は電話の相手の声を聞きながら『だいじょうぶ?』と口パクで話しかけてくれた。

(大丈夫じゃないかも……)

 ただでさえ好きなのにこれ以上好きになってしまったら、どうすれば良いのだろうか。私は顔を俯けた。