週明けの月曜日。私はどんな顔をして専務に会えば良いのかわからなかった。だけど、専務はいつもと変わらず社内で笑顔を振りまいている。意識しているのは私だけみたいでちょっと悔しい。

（集中しないと……）

　気合いを入れて机に向かうと、専務からメッセージが届いていた。

『今日も可愛い♡愛してる♡』

　メッセージを開いてしまったことを後悔した。私は赤くなった顔を隠すために、体を小さくしてパソコンに向かった。

　その数分後、専務が私の働くフロアへやってきた。とても顔を見る余裕はなくて、私は慌てて書類を持ってコピー機へ向かった。

「詩織、これも一緒にお願いできる？10部お願い。」
「わかった。」

　奈々美から書類を受け取ってコピー機にセットする。スタートボタンを押すと、奈々美は小さな声で話しかけてきた。

「詩織、今、専務来てるよ？」
「あ、そ、そうなの？」
「見なくていいの？」
「うん……今コピーしてるし。」
「ふぅん。」

　普通にしているつもりだけど、動揺は隠せていない。私は奈々美にバレないようにと願った。

「なんか今日の専務、妙に色気がある気しない？あれさ、女ができたと思うんだよね。」
「そ、そうかなぁ……どうなんだろうね〜ははは。」

　背中を変な汗が伝っていく。

「ちょっと詩織！全部白紙になってる！」
「え？」

　原本を裏返してコピーしていたらしい。

「ごめん、すぐやり直すね。」
「終わったら机置いといてくれない？篠原さん呼んでるみたい。ごめんね。」
「ううん。大丈夫。」

（もう、どうしよう……）

　専務が近くに来ただけで動揺してしまう。早く慣れなければ、ずっとドキドキしながら仕事をすることになる。私はため息をつきながらコピーを再開した。

「なるほどねぇ……」

　奈々美はため息をつく詩織を見て、キラリと目を光らせた。

（私の目は誤魔化せないわ。専務の色気の根源が、こんな近くにいたなんて……ふふふふ。）

　奈々美はポケットからスマホを取り出した。