友人の奈々美と一緒にランチから戻ってきた私は足を止めた。エントランスにたくさんの女性社員が集まっている。
「この気配……専務が来る……」
奈々美がため息をつくのも構わず、奈々美の腕を掴んで壁際に移動すると、エレベーターが開いて高そうなスーツをサラッと着こなすイケメンが現れた。
「来たよ!」
みんな一様に颯爽とエントランスを横切る専務に熱い視線を向けている。専務は見た目が良いだけでなく、役員なのに威張らないし、社内の隅々にまで気を配ってくれている。私の憧れだ。
「私は中川さん派だな。」
隣でぼそっと奈々美が呟いた。専務の少し後ろを歩く中川さんは、専務の秘書。ミステリアスで出立ちが執事そのもので、見た目が2次元っぽいから実は中川さんのファンも多い。
「詩織、打ち合わせあるから早く戻ろ?」
「うん。いよいよ明日だね!」
明日は新商品をPRするため、奈々美と一緒に展示会へ出席する。そのために、これまで何度も打ち合わせを重ねてきた。名刺もたくさん用意して、試供品も準備万端だ。
「頑張ろうね、奈々美!」
翌日、気合を入れて会場へ向かっている途中で、奈々美から電話がかかってきた。
「奈々美?どうしたの?」
「詩織、ごめん……なんか熱があるみたいでさ……」
「えっ、大丈夫なの?」
「篠原さんには連絡したから……ごめん……」
「わかった。こっちはなんとかする。早く良くなってね。」
奈々美の声が弱弱しかったから反射的に何とかすると言ってしまった。だけど、私だけでは無理だ。
「とりあえず、篠原さんに電話を……」
私は上司の篠原さんに電話をかけた。人見知りな私に代わり、奈々美が声をかけて私が説明をする予定だった。奈々美がいなければ、商談ができない。篠原さんは私が人見知りなことを知っているから、帰ってきなさいって言ってくれるかもしれないなんて淡い期待を抱いていた。だけど──
「松田さん熱出ちゃったんですってね。聞いたわ。でもまぁ大丈夫よ。名刺だけ配って来ちゃって。」
「私一人でですか!?」
「そんなに心配することじゃないわ。平気だと思うわよ?早川さんだけで。」
「でも……」
「試供品もできたら配ってきてね。大丈夫よ、頑張って。」
今回の展示会でどれだけPRできるのかが、商品の行く末を握っている。ここまで来たらやるしかない。私はぐっと手を握りしめて会場に足を踏み入れた。しかし──
「無理だ……」
会場の中はたくさんの人であふれかえっている。既に至るところで商談が行われていて声をかける隙がない。そもそも誰に声をかけて良いのかわからない。
(名刺渡したことにして帰っちゃおうかな……でも、せっかく来たしなぁ……)
私は試供品が入った紙袋を持って、その場をうろうろしていた。
「ねぇ、君……」
突然声をかけられて、ピンと背筋が伸びた。振り返ると、爽やかなイケメン──東雲専務だった。
「この気配……専務が来る……」
奈々美がため息をつくのも構わず、奈々美の腕を掴んで壁際に移動すると、エレベーターが開いて高そうなスーツをサラッと着こなすイケメンが現れた。
「来たよ!」
みんな一様に颯爽とエントランスを横切る専務に熱い視線を向けている。専務は見た目が良いだけでなく、役員なのに威張らないし、社内の隅々にまで気を配ってくれている。私の憧れだ。
「私は中川さん派だな。」
隣でぼそっと奈々美が呟いた。専務の少し後ろを歩く中川さんは、専務の秘書。ミステリアスで出立ちが執事そのもので、見た目が2次元っぽいから実は中川さんのファンも多い。
「詩織、打ち合わせあるから早く戻ろ?」
「うん。いよいよ明日だね!」
明日は新商品をPRするため、奈々美と一緒に展示会へ出席する。そのために、これまで何度も打ち合わせを重ねてきた。名刺もたくさん用意して、試供品も準備万端だ。
「頑張ろうね、奈々美!」
翌日、気合を入れて会場へ向かっている途中で、奈々美から電話がかかってきた。
「奈々美?どうしたの?」
「詩織、ごめん……なんか熱があるみたいでさ……」
「えっ、大丈夫なの?」
「篠原さんには連絡したから……ごめん……」
「わかった。こっちはなんとかする。早く良くなってね。」
奈々美の声が弱弱しかったから反射的に何とかすると言ってしまった。だけど、私だけでは無理だ。
「とりあえず、篠原さんに電話を……」
私は上司の篠原さんに電話をかけた。人見知りな私に代わり、奈々美が声をかけて私が説明をする予定だった。奈々美がいなければ、商談ができない。篠原さんは私が人見知りなことを知っているから、帰ってきなさいって言ってくれるかもしれないなんて淡い期待を抱いていた。だけど──
「松田さん熱出ちゃったんですってね。聞いたわ。でもまぁ大丈夫よ。名刺だけ配って来ちゃって。」
「私一人でですか!?」
「そんなに心配することじゃないわ。平気だと思うわよ?早川さんだけで。」
「でも……」
「試供品もできたら配ってきてね。大丈夫よ、頑張って。」
今回の展示会でどれだけPRできるのかが、商品の行く末を握っている。ここまで来たらやるしかない。私はぐっと手を握りしめて会場に足を踏み入れた。しかし──
「無理だ……」
会場の中はたくさんの人であふれかえっている。既に至るところで商談が行われていて声をかける隙がない。そもそも誰に声をかけて良いのかわからない。
(名刺渡したことにして帰っちゃおうかな……でも、せっかく来たしなぁ……)
私は試供品が入った紙袋を持って、その場をうろうろしていた。
「ねぇ、君……」
突然声をかけられて、ピンと背筋が伸びた。振り返ると、爽やかなイケメン──東雲専務だった。



