ひと夏の経験、五つの誘惑

視線を逸らし、背中を向けて歩き出す。

足音が砂を踏みしめ、鼓動の音と混じる。

その時、背後から肩を叩かれた。

振り向くと、さっき羽月とキスをしていた男子が立っていた。

短髪で、日に焼けた顔。

「ええっと……」と俺が言う前に、彼は軽く笑った。

「佐々木です。一組の。」

「ああ。」

短く返し、何となく視線を逸らす。

「羽月なら来ないですよ。」

その言葉に、思わず彼を見た。

「っていうか、羽月は俺の彼女です。」

「……あ、そうなんだ。」

口に出した言葉はやけに軽かったが、胸の奥にはどうしようもない空虚が広がっていた。

「羽月と……したんですよね。」

その言葉に、呼吸が一瞬止まった。

彼氏の前で、何と返せばいいのか分からない。

「その……」と口ごもる俺に、佐々木は淡々と続けた。

「いいんです。羽月が選んだことだから。」