ひと夏の経験、五つの誘惑

一週間後、俺は羽月を保健室に呼び出した。

あの日の続きを求めていたわけではない。ただ、あの笑顔をもう一度見たかった。

しかし、待てども彼女は現れなかった。

胸の奥に、冷たい予感が広がる。

ああ、これはきっと……振られたのだ。

落ち着かない足取りで校舎を出て、そっとテニスコートを覗く。

白いユニフォーム姿の羽月が、仲間と笑いながらラケットを振っていた。

陽射しに照らされるその笑顔は、まるで何事もなかったかのように眩しかった。

コートの端で、羽月のそばに一人の男子が歩み寄った。

軽く言葉を交わしたかと思うと、そのまま顔を近づけ――唇が触れた。

胸の奥がズキリと痛む。

見たくない、と頭では思っても、目が離せなかった。

彼女は驚く様子もなく、そのまま笑っていた。