一度、二度、三度……繰り返すごとに、羽月の呼吸が落ち着き、頬の赤みも和らいでいくのがわかった。

何度目かの口移しのあと、震えていた指先がようやく静まり、ベッドのシーツをしっかりと握りしめられるほどに力が戻っていた。

「……ありがとう、聡志先生。」

掠れた声でそう言いながら、羽月は力の抜けた表情でふっと微笑む。

汗に濡れた額と、少し乱れた前髪。その奥で輝く瞳は、安堵と信頼の色を帯びていた。

その笑顔を見た瞬間、俺は心の奥で確信した――今、自分は確かに一人の人間を救ったのだ、と。

その事実が、胸の奥に静かで大きな温もりを残していった。

困ったのは、その後だった。

あの日を境に、羽月は何かにつけて保健室に俺を呼び出すようになった。

「本当に体調、悪いのか?」と問いかけても、「うん」と小さく頷くだけ。

それ以上は追及できず、結局そばに付き添うことになる。