意識はまだ朦朧としているようで、焦点の定まらない視線が俺をかすめる。

それでも、ふっと小さく笑みが浮かんだ。

「後は俺が付いてるから。」

そう告げると、運んできた生徒たちは安堵した様子で頷き、練習へ戻っていった。

保健室の扉が静かに閉まると、部屋には羽月の浅い呼吸と、時計の秒針の音だけが残る。

「小野、分かるか? 俺のこと。」

呼びかけると、羽月はゆっくりと震える手を伸ばし、俺の腕を掴んだ。

その力は弱々しいが、確かに俺を求めていた。

「……うん。聡志先生でしょ。」

掠れた声を聞いた瞬間、胸の奥の緊張がようやくほどけた。

意識が戻って、本当に……よかった。

ふと見ると、羽月の指先が小刻みに震えていることに気づいた。

「先生……水……」

声はかすれ、今にも消えてしまいそうだ。

まずい、脱水症状かもしれない。

俺は急いで紙コップに水を汲み、ベッド脇に戻る。