「どうしたの?」
「呼んでくれって言われたから。」

「え、忘れ物じゃないの?」
「忘れ物は……俺。」

ユウくんは笑いながら自分を指差している。いつもなら、何言ってんのって笑えるのに、なぜか笑えない。

「なんだよ、ボケたのに。」
「あ、あぁ……なんか待っててくれたからびっくりしちゃって……急にそんなこと言わないでよ。」

そうだよね。冗談だよね。

「イチカ、今から用事ある?」
「今から用事なんてないよ。」

「じゃあ、泊まってかない?」
「えっ、泊まり!?」

もう少しゲームしたいとか、お酒飲もうとかそういう誘いかと思った。泊まってくれってなんか……

(直接的すぎない!?)

途端に心臓がドキドキし始めた。

「なんで?」
「今日だけでいい。何もしないから。」

ユウくんは私を抱かない。何もしないのは嘘じゃない。だけど、どうして急に泊まって欲しいなんて言うんだろう。

部屋に入ると、もうお姉さんの薔薇の香りは消えていた。