ユウくんの部屋は、以前来た時より散らかっていた。キッチンには洗い物が残っているし、服もいろんなところに置かれている。

「なんか部屋汚くない?」
「そう?」
「片付けなよ。前はもっと綺麗だったじゃん。」
「俺が綺麗にしてたわけじゃないから。」

「え、女の人?」
「勝手にやる人がいるんだよね。」

「彼女?」
「あっちはそう思ってたかも。」

今は世話を焼く彼女みたいな人もいないってこと?

「それで?今世紀最大の相談って何?プロポーズでもされた?」

黒いソファーに座ると、ユウくんは麦茶を入れて持ってきてくれた。

「そこまですごいことじゃないんだけど。」
「ふーん。」

なんかドキドキする。ちょっとだけ早まったかもしれないと思ったけど、もう引き返せない。

「ユウくんは好きな人っているの?」
「俺?俺は……」

緊張する。ユウくんに好きな人がいたら、言うのはやめよう。

「俺さ、『好き』って感情がわからないんだよね。」
「どういうこと?」

「そのまんまの意味。」

ユウくんは麦茶を飲んだ。

「でも、彼女いたじゃん。高校の時も。最近もいたって言ってたよね?」
「告白されて付き合って欲しいって言われたから付き合っただけ。俺が好きだったわけじゃない。」

「でも、付き合ってたら好きになってくとかないの?可愛いとか、楽しいとかさ。」
「うーん……特には。」

今世紀最大の相談をする前から、玉砕してしまいそうだ。

「イチカはいるの?」
「えっ」
「好きな人。」

ドキッとして肩が震えてしまった。私は手を握りしめた。

「うん……いるよ。」
「へー、いないって言ってたのに、できたんだ。」
「うん……」

「それが今世紀最大の相談?」
「そう。」

私は喉を潤すために麦茶を飲んだ。

「サークルの人?」
「違う。」

「サークルじゃないんだ。」
「うん。」

「どんな人?」
「すごくかっこいいよ。」

「ふーん。何歳くらい?」
「同い年。」

「身長は?」
「身長?なんで?」

「身長高い方がカッコいいじゃん。」
「そうかもしんないけど、私はそんなに……」

ユウくんが身長にこだわるなんて、初めて知った。

「告白されたの?そいつに。」
「ううん。これから言おうと思ってて……」

「見込みあるの?」
「ない。」

可能性はゼロに等しい。

「へー、イチカって負け戦挑むタイプなんだ。」
「今までは違うよ。待つタイプだったと思う。」

私は王子様を待っていた。でも、王子様は意外と近くにいるものだ。

「あー、そうだよね。急に攻めるんだ?」
「うん。言わないと気づいてくれなそうだから。」

「ふーん。いつ告るの?」
「えっと……今日……かな。」

「今日?」
「うん。」

「今からってこと?」
「……うん。」

「なに?電話すんの?」
「直接……言おうかな。」

「今から行くの?そいつんとこ。」
「うん。」

「もう夜なんだけど。」

ユウくんは夜中に遊んでるのに、保護者みたいな忠告をされて、笑ってしまった。