「な、ないですってば」

「あのさあ。さっきから気になってんだけど、なんで敬語なんだよ。タメだろ、俺ら」

「そうでし……そうだったね」


 だって怖いから……なんて本当のことはさすがに怖くて言えない。


「たとえば……そうだ。俺らがガチで付き合いはじめたら、これ仕組んだヤツ、慌てんじゃね?」

「へ⁉」


 いやいや、高遠くんとわたしがお付き合い……?

 どう考えたって不自然でしかない。


 ああ、そっか。今わたしは美月の代わりをしているんだった。

 つまり、犯人をあぶり出すため、なんて口実で美月と付き合おうとしてるってことで……。


 え、これ、どうしたらいいの?

 マズいよね、やっぱり。

 でも、断ったりしたら、なにをされるか……。


 再び恐怖にぶるるっと体を震わせる。


「は? イヤなのかよ、俺なんかと付き合ってるフリすんのも」

「フリ⁉ えっと、イヤと言いますか……」

「ほらまた敬語」

「ご、ごめんなさ……ごめんね」


 びっくりした。『ガチで付き合いはじめたら』なんて言うから、本気で付き合うって話かと思っちゃったよ。

 フリ……なら。

 いやでもこれって『美月』として付き合ってるフリをするってことでしょ?

 これからもずっと美月のフリをし続けなきゃいけないなんて……っていうか、高遠くんと付き合ってるフリをしてるところなんて沢村くんに見られでもしたら、美月、すっごく怒るよね?


 うぅっ、どうしたらいいんだろ……。