「ありがとうございましたー」

「またねー、柊くん」

「ねえ、今度あたしとデートしてよ」

「お店でいつでもお待ちしてますんで。またよろしくお願いします」

「ほーんと、カタいんだから、柊くんってばあ」


 学校帰り、本屋に寄ろうと途中下車した駅前にあるカフェの店先で、賑やかな話し声がする。

『柊くん』という名前に思わずぴくりと反応する。

 声のする方を見て、わたしはそのまま固まった。


 ……本物の高遠柊くんだ。


 お客さんを見送ると、お店の前に落ちているゴミを、ゴミばさみで拾ってはゴミ袋に入れはじめた。

 ここでバイトしてるの?


 視線を感じたのか、高遠くんがわたしの方を見た。


「あ……」

 気まずげな表情を浮かべたあと、高遠くんがくいっとお店の方を指さす。

「……もしよかったら寄ってってよ。俺おごるし」

「え、でも……」

「普通のカフェだよ。ヘンな店じゃねえから心配すんなって。ここ、俺の叔父の店なんだ」

「……」

「うちのレモンスカッシュ、超うまいから」


 レモンスカッシュ?

 その言葉に心が揺れる。


「ははっ。ほんとに好きなんだな」

 そう言って、高遠くんが扉を開けてくれる。

「……じゃあ、ちょっとだけ」