「だ、大丈夫だよ。高遠くんは、もう気にしないで」

「でも、俺のこと、怖いんだろ。そばにいない方がいいよな。だからあのとき……」

「高遠くんのせいじゃないよ! わたしが悪いの」

 無意識のうちにきゅっと左の手首を握りしめる。


 そう、高遠くんのせいじゃない。

 強くなれないわたしが悪いんだから。


「そんなふうに自分を悪者にすんなよ。責められた方が……ずっとマシだ」

 高遠くんが、ぐしゃっと顔を歪める。


 まさか高遠くんがそんなふうに思っていたなんて。


「……ごめんね」


 こんなことなら、はじめから美月の頼みなんて聞かなければよかった。

 高遠くんと、こんな形で再会しなければよかった。


 顔を俯かせるわたしの脇を通りすぎて、高遠くんは黙って校舎へと戻っていった。


 これで、終わり。

 明日から、いつも通り、今まで通り。

 これでいいんだ。


 ——その日以降、学校で高遠くんを見かけることはなくなった。


 ウワサでは、街で暴れて補導され、学校を退学処分になったとか。

 やっぱり最初のウワサ通り、怖いヤンキーだったんだ。

 あれ以上近付かなくて正解だったんだ。


 ……不器用な優しさをわたしに向けてくれていた高遠くんは、わたしの前だけの、きっと偽りの姿だったんだ。


 そう思い込むことにした。