がしゃんっ。


 ペットボトルが地面に落下し、トクトクトクと中身が流れ出す。


「ご、ごめんね。せっかく買ってもらったのに」


 慌てて拾いあげたけど、汗をかいたペットボトルの周りに土がついちゃった。

 濡れているせいで、払っても払ってもキレイにならない。


「そっか。残りを早く飲んじゃえば——」

 そのまま口元に運ぼうとしたペットボトルを柊くんが奪う。

「口んとこにも泥ついてるかもしんねーだろ」

「でも、せっかく残ってるし」

「だからっ……俺がもらうっつってんだろ」

 苛立った声でそう言うと、柊くんはペットボトルに口をつけ、ごくごくと喉を鳴らす。


 泥がついてるかもって言ったのは柊くんなのに。


「はい、からっぽ」

 そう言うと、近くにあったゴミ箱へとペットボトルを投げ入れる。

「そろそろ帰るか」

 一度もわたしの方を見ずにカバンを肩にかけると、柊くんは駅に向かって歩き出した。


 わたしはその後ろをとぼとぼとついていく。


 柊くん、なんだか怒ってる……?

 わたしがせっかく買ってもらったペットボトルを落としちゃったから?


 ううん、違う。

 わたしが……柊くんの手を怖がったから。

 多分……傷つけちゃったんだ、わたし。柊くんのこと。


 違うのに。

 違うって言えなかった。


 わたしは、左手首を右手でぎゅっと握り締めた。