「あっ、そうだ、お金……」

「いいよ。別に」

「でも、そういうわけにも……」

「じゃあ、また今度なんか奢って」

「う、うん。わかった」


 それから二人して黙ってペットボトルの蓋を開けると口元へと運ぶ。

「あっ、これおいしい」

「なんだ。それ初めて飲んだのかよ」

「これは初めて。でも、レモンの炭酸水は前から好きだから」

「ふぅん。てっきりこっち選ぶと思ってた」

 そう言って柊くんが自分の持っている紅茶のペットボトルを掲げて見せる。

「あ、ご、ごめんね。ひょっとして柊くん、こっちがよかった⁉」

「別にいいって。だから選ばせたんだし」

「よかったらこれ飲む? あ、でもわたしが口付けたのなんてイヤだよね」


 思わずヘンなこと言っちゃった。


「いい。もらう」

 柊くんが立ち上がると、ベンチがギシッと音を立てる。

「へ?」


 柊くんの大きな手が、ペットボトルを持つわたしの手にかすかに触れた瞬間——。

 怖い……!