祇王と仏午前・猫物語

「はい…でも監督、ソムスイは日本語あまりできないんで、だから…俺。昨日だってこいつ俺といっしょに残業してましたよ。昨日だけじゃなくってずーっと前から。だのになんでこいつだけ残業代出ないんです?」
「だからそれが余計だと云うんだ!ソムスイなど外国人労働者にはな、ここに来る前に斡旋業者に高い斡旋料を払っているんだ。だから残業代も、給料からの天引きも、みんなそれに充当しているんだよ」
「カ、カントクサン。デモ、オ、オレ、クニデ、ベトナムデ、カネハラッタヨ」
「それはそっちの話。こっちで会社が払っているのは求人業者への紹介料だ」
「求人業者じゃないでしょ、それは。監理団体じゃないですか、外国人労働者の」
「おいおい、現場でそんな話するなよ。みんなの目があるじゃないか」と最後に云ったのは通りかかったヘルメットに三本も線のある人で 、監督さんより偉い人みたいです。監督さんがペコペコとお辞儀してましたから。その人を見送ったあとで「ばかやろ、こっち来い。詰め所へ。ソムスイも」と云っては主人の腕をつかんで裏の方へと乱暴に引いて行きます。フーッ、なにをするのよ!わたしの主人に!追いかけて監督の足にかみついたところで目が覚めました。
 主人が目を覚まして身体を起こしたのです。「ああ、あのまま寝込んじまったのか。いま何時だ?…夜中の3時か。ちぇっ、まったく」上半身を起こしてボーっとしています。「ミャーオ」わたしがすり寄るとひざの上に抱き寄せて「祇王、大変なことになっちまった。ここを出て行かなければならないことになった」と聞き捨てならないことを云うのです。