祇王と仏午前・猫物語

「祇王、お聞きの通りさ。えらいことになっちまった。どうしような…」と聞いてくるのですがわたしにはまだ何がなんだか事態が把握できません。お風呂上りにでも舌で聞いてあげようと思ったのですがそのあと主人は風呂にも入らず、食事も取らないで作業着のままで寝込んでしまいました。うつ伏せになって、泣くようにして寝入ってしまったのです。いくら横顔を舐めても爪で軽く引っかいても起きません。わたしは主人の背中に乗って冷えないように暖めてあげることしかできませんでした。そしてその晩主人の背中の上で夢を見ましたの…。
 ここはどこかしら、ヘルメットをかぶった男の人たちがあっちこっちで働いている。あ、わかった。ここは主人が働いている建設現場だわ。主人はどこに?…ああ、いたいた。ニャーオ、そばに行ってみようっと。わたしもヘルメットかぶらなくていいかな。働いている人たちをサッとかわしてっと…ニャーオ来ましたよ、ご主人様。あら、気づかないわ。わたしが見えないのかしら。でもちょっと待てよ、なにかようすがおかしいわ。主人ともうひとり、ああ、あれはソムスイさんだ。二人並んで前の人に叱られているみたい。ははあ、なるほど。じゃあこいつが監督さんね。いつもいつも主人ばかりを叱ってくれるそうね…聞いているわよ。フーッ(怒った声)かみついてやろうかしら、まったく。とにかく主人のかたわらに座っててあげましょ。眼付けをしてやるわ。さあ監督さん、いったいなんだって云うのよ。何を怒ってるんだか云ってみなさいよ。
「いいか、俊田(申し遅れましたが主人の名前は俊田というのです)。ソムスイの給料のことでおまえが余計な口出しをするな。おまえはただおまえの仕事をしていればいいんだ」