「瀬を早み岩にせかるる滝川の割れても末に会はむとぞ思ふ」これが、この歌が、主人がわたしに残して行った最後の言葉となってしまいました。この歌をわたしとお婆さんの前で聞かせてにっこりと笑うと、主人はわたしに触れることもなく、お婆さんに深く一礼して去って行ってしまったのです。その時わたしは「祇王、おまえしばらくよその家に行くからな。また迎えに行くからいい子でいるんだぞ」という前の日に云った主人の言葉を信じていましたから踏み止まったのですが、一瞬不吉な予感がして、わたしを抱いてくれているお婆さんの手から逃れて主人のあとを追おうとしたのです。しかし「いいの、いいの。祇王ちゃん、俊田さんはまた帰って来るから、追わなくてもいいの」と言い聞かせるお婆さんの言葉に逆らえずついに追うことはしなかったのです。その言葉を信じるしかありませんでした。
それなのに1日たっても2日たっても主人は現れず、それがひとつきとなりふたつきとなり、ついに1年が過ぎても帰っては来ませんでした。そうです。主人はわたしをお婆さんに託したままでわたしの前から永遠に去って行ってしまったのです…。
それなのに1日たっても2日たっても主人は現れず、それがひとつきとなりふたつきとなり、ついに1年が過ぎても帰っては来ませんでした。そうです。主人はわたしをお婆さんに託したままでわたしの前から永遠に去って行ってしまったのです…。



