隣室などに聞こえないように小声で「監督によけいなことを云ったので怒られちゃってさ。この一週間の間にここからおん出なければならない。おまえをどうしような、祇王…」そう云ってはわたしにうつろな眼差しを向けます。
 主人とわたしがここに住んで2年になります。それなら転居費用など充分あるだろうとみなさんはお思いでしょうが、主人には大学時代の学費返済という重荷があったのです。大学卒業後はいい会社に勤めたそうですがそこを辞めてしまったそうで、あとは職を転々としたとか。だから蓄えはあまりないのです。わたしは主人とならどこへでも行くつもりです。2人で、あ、もとい、1人と一匹でたとえ野良猫に、あ、これももとい、野良人と云うのですか?野良人と野良猫になったとしても必ずいっしょにいるつもりです。そのことを態度で示そうと思って、「わたしのことなら安心して」と伝えようとして、わたしひっくり返ってみせて、主人にくすぐることを要求しましたの。フフと微笑んでは主人はいつものようにわたしとしばらくジャレたあとで立ち上がり、音を立てないようにして夜具を延べると着替えてすぐに寝込んでしまいました。そばに寄り添ったわたしはしかしまなじりを決して、これからの主人との道行きを強く覚悟しましたの。表でオスの野良猫どうしが喧嘩を始めました。「シッ!静かにしてよ。主人が起きるじゃないの!」。

【野良猫になったっていいです…主人と一緒なら。from pixabay, by Tikovka1355さんの作品。↓】