【書籍化】聖騎士様と始める異世界旅行事業 ~旅行会社の会社員でしたが異世界に転生したので起業します~

 セシリーナとヒースは、ワールドツーリスト社の王都支店に向かって歩いていた。
 隣の彼を見やれば両手いっぱいに荷物を抱えている。すべて自分が計画なしに購入したものだ。重そうにしていたセシリーナを見かねたらしく、ヒースが代わりに王都支店まで荷物を運んでくれると申し出てくれた。彼には本当にお世話になってばかりだ。
 ヒースは両手に軽々と荷物を持ちながら、夜の街並みに目をやる。

「……折り入ってあんたに伝えたいことがあったから、ここで会えてよかったよ」
「そうだったんだ。ヒースが私に話があるなんて珍しいですね」
「そう?」
「うん。どちらかというと私から話しかけることが多かったから」
「そうかもね」

 ヒースは涼しい顔をしている。
 彼はあまりおしゃべりなほうではない。クラーク一族として人に明かしていいことといけないことがあるからかもしれない。秘密主義なのだ。
 だからセシリーナは彼から声をかけてもらって嬉しかった。無意識に頬が緩んでいたらしく、ヒースがわざとらしく嫌そうな顔をする。

「……そんなに嬉しそうににやにやしないでよ」
「だってヒースに声をかけてもらえて嬉しかったんだもん」
「あっそ」

 そっけなく言われて、そのあとふたりは無言になる。
 それでも気まずくはなく心地よかった。いつの間にか自分はヒースといることが自然になっていたのだ。それだけ彼とたくさんの時間を一緒にいたからかもしれない。
 ふとヒースが足を止めた。

「……あの、さ」
「うん?」
「さっき言ったあんたに伝えたいことなんだけれど」
「ああ」

 セシリーナもヒースに倣って立ち止まる。頭上の夜空から差し込む月明かりがセシリーナとヒースを照らし出す。青白く輝く彼の端正な顔立ちが美しい。
 ヒースは彼にしては意外なほどへらりと苦笑いを浮かべた。

「……あのさ、引かないで聞いてほしいんだけれど。僕、あんたのこと好きになったみたいなんだよ」
「すっ……え?」

 い、いまなんて? 好き……好きって言った?
 セシリーナはたじろぐ。

「好き……て、ヒースが私を?」
「そう」
「いや、そんなあっさり言われましても……!」
「僕も不本意なんだよ。あんたのどこがそんなに良いのかわからない」
「ひどっ」

 それが告白した相手に言うことですか! と叫びたくなる。
 そうとはいえ、ヒースが自分を好きになってくれたのは間違いないらしい。照れ隠しに彼は冷たい言い回しをしているのかもしれない。
 今更ながら心臓が早鐘のように鳴る。ヒースが視線を逸らしながら後ろ頭を掻く。

「うーん、まぁ、あんた頑張り屋だからさ。何事にも一生懸命なところを好きになったんだと思う。応援したくなるというか。僕が支えてやりたいなと思うというか」
「あ、ありがとう……」

 面と向かって言われると照れてしまう。
 ヒースはそんなふうに自分のことを見てくれていたのか。きっとさりげなく傍で応援してくれていたのかもしれない。自分も、彼のさりげない優しさが好きだった。今回荷物を持ってくれたこともそうだけれど、彼はここぞという時に手を差し伸べてくれるのだ。一緒にいてほしいと思える素敵な男性だと思う。自分などにはもったいないくらい。けれども自分には心を通じ合わせた人がいる。彼の想いには応えられないのだ。
 セシリーナは勢いよく頭を下げる。

「でも、ごめんなさい!」
「セシリーナ……」
「私、お付き合いしている方がいるんです。ヒースの気持ちは、とっても嬉しいけれど」
「お付き合い……。ああ、なんだ、やっと上手くいったんだ」
「へ?」

 目を丸くするセシリーナ。ヒースはにやりと笑う。

「知っているよ。あんたの想い人はアベルでしょう。あんたたち、ずっと両片想いだったからいつくっつくのかやきもきしていたんだけれど、ついに上手くいったんだね」
「両片想いって、ヒース、私がアベルのことが好きだって気づいていたんですか?」
「もちろん。傍から見ていたら誰でもわかると思うよ」
「う……」
「だってあんた、いつもアベルのことばかり目で追っていたじゃない。アベルはアベルでセシリーナのことばかり考えているし」
「そうだったの?」

 それは知らなかった。自分のいないところでアベルが話題にしていたのだとしたら恥ずかしいけれど嬉しい。
 頬を染めるとヒースが肩を竦める。

「ほら。だからあんたとアベルが想い合っていることは誰でも見ればわかるって言ったんだよ。それだけ顔に出ていればね」
「う……」
「僕はあんたとアベルの仲に割って入ろうってわけじゃないんだ。むしろ応援している。あんた達はよくお似合いだから」
「ヒース……」
「もちろん、アベルがあんたを泣かせるようなことがあれば遠慮なく奪いに行くつもりだけれど」
「……っ!」

 ヒースのいたずらっぽい笑顔に、セシリーナは心臓が飛び跳ねる。
 彼は一見毒舌で無愛想だけれど、その実さりげない優しさのある誠実な男性だ。加えて高貴な身分に端正な外見――やはり自分などにはもったいない。
 セシリーナはもじもじしてしまう。

「……あの、ヒースって非の打ちどころがないくらい素敵な人じゃない?」
「それはありがとう」
「う、うん。だから、そんなあなたがどうして私を気に入ってくれたのかなって」
「…………」

 ヒースは心底悩んでいる顔をする。失礼極まりない。

「あの、そんなに悩まなくても?」
「自分でもよくわからないんだよね。あんたどうしようもないほど危なっかしいし」
「…………」

 今度は自分が無言になる番だった。
 自分で言うのもなんだけれど、たしかに自分は後先考えない猪突猛進なところがある。行き当たりばったり、出たとこ勝負、見切り発車、表現するとそういったものになるのだろう。対してヒースは慎重派というか、石橋を叩いて渡るような性格だ。彼にとって自分は危なっかしくて仕方ないのだろう。