【書籍化】聖騎士様と始める異世界旅行事業 ~旅行会社の会社員でしたが異世界に転生したので起業します~

 セシリーナの考案した『ラストダンジョン攻略ツアー』。関係者が各業界に働きかけてくれたおかげで相当数の参加希望者が集った。近衛騎士、一般兵、神官、傭兵、冒険者、商人、異国の戦士――様々な腕自慢が顔を揃えた。
 その中でも異色だったのはラルフが率いてきた竜人の面々だ。人びとは集まった竜人たちに最初は恐れおののいていたけれども、彼らは同じ目的で集まった仲間。加えて異種族の強面に反して気さくで友好的だった。ぽつぽつと言葉を交わすうちに次第に打ち解けていった。

 広告を見て集まってくれた面々を前に、セシリーナは深呼吸をしていた。
 これからワールドツーリスト社の社長として皆の前に出なければならない。『ラストダンジョン攻略ツアー』の概要を説明するためだ。このツアーは最終的に『星を喰らう魔獣』を撃破しなければならない。世界の根幹に触れる話もしなければならなくなる。それを広場で大々的にするわけにもいかない。だから秘密を守れる精鋭を自分の目で見極め、選出しなければならない。

(ツアーという名の選抜試験の始まりだ)

 自分は試験監督だと思って臨まなければならない。最後まで命を懸けて一緒に戦ってくれる仲間を見つけるのだ。『星を喰らう魔獣』について話すのはその選ばれた仲間のみに絞るつもりだ。

 セシリーナは広場に設置された高台に上がる。参加者たちが雑談を止めてセシリーナを見上げる。場内が静まり返った。
 セシリーナはすうと息を吸う。

「――皆さま、本日はワールドツーリスト社主催『ラストダンジョン攻略ツアー』の説明会にお集まりくださりありがとうございます!」

 セシリーナの声音が朗々と響き渡る。アベルとケルヴィン、ヒースは舞台袖に控えていた。何かあったときに助け船を出すためだ。
 セシリーナは凛と前を見つめる。

「本ツアーは、我が社が決行する旅行のうち最高難易度のダンジョン攻略となる予定です。もはや旅行などという生易しいものではありません。場合によっては命を落としてしまうかもしれない。それくらい危険なものです」

 客席からどよめきが起きる。
 思っていたよりもシビアな説明だったのかもしれない。けれども事実を誤魔化して伝えていいほど安直なものではないのだ。本当に今回のツアーは命がけでの戦いとなる。生きて帰れる保証はない。
 セシリーナは再度、息を吸い込む。

「今回のツアーで赴く旅行地では、おそらく歴史きっての強敵を相手にすることになります! 勝てる見込みはありません。それでも事情があり、私たちはその強敵を撃退しなければなりません」
「聖騎士の俺と竜王のラルフが手を組んで挑む魔獣だ。それがどういった相手なのか。熟練の達人である皆には察しがついていると思う。その魔獣は野放しにしておけば皆の平和を奪う。人間も竜人も関係なく」

 アベルが壇上に上がった。次いでラルフがアベルの隣に並ぶ。

「我々は皆のことを守るために立ち上がる。文字通りラストダンジョンに挑み、ラストボスと対峙する。我々が負ければこの世界は終わりを迎えるだろう」
「終わりを迎える……。みんな死んじまうってことなのか?」

 客席の誰かが声を上げた。舞台袖に控えていたヒースが壇上に登る。

「そうなるだろうね。あまりにも凶悪な魔物だから。気になるだろうけれど、これ以上の情報を話すことはできない。いたずらに不安を煽るだけだから」

 ケルヴィンがセシリーナの後ろに控える。

「今の話を聞いてそれでもツアーに参加するという方のみこの場に残ってください。残ってくださった方々には詳細をお伝えいたします」
「ただし本当に生死を分かつ決戦になります。慎重に判断してください。主催者といたしましてはひとりでも多くの方が残ってくださると嬉しいです」

 最後にセシリーナが締めくくる。
 ひとり、またひとりとその場を離れていった。そこまでの覚悟は決められない者。自分の腕に自信のない者。残してきた家族のいる者――彼らにはそれぞれの事情があるのだろう。
 結局その場に残ったのは、正義感の強そうな近衛騎士の青年、褐色の肌に黒髪の異国の戦士、いつぞやのダンジョン攻略ツアーのときに参加した傭兵、竜人の青年だった。

(四人も残ってくれた……)

 セシリーナはそれが嬉しかった。正直ひとりも残らないのではと思っていた。
 セシリーナは残った四人に深々と頭を下げる。

「残ってくださってありがとうございます……!」
「いえいえ。自分、ずっとアベル様に憧れておったのです。このような機会があればぜひお役に立ちたいと思っておりました。微力ながら一緒に戦わせてください!」

 近衛騎士の青年が爽やかに挨拶をする。
 異国の戦士が進み出た。

「私は火の村アグニスの戦士だ。あなた方が言葉を濁している魔物についてもある程度の事情を知っている。その魔物を倒すために村長より遣わされた。ここで帰る理由はない」
「村長さんの……。ありがとうございます。ぜひお礼をお伝えください」
「承知した」

 セシリーナは頭を下げる。異国の戦士は真摯に頷いた。
 屈強な体躯の傭兵が気さくに手を上げる。

「よぉ、お嬢ちゃん! 俺のことを覚えているか?」
「あ、覚えてます! たしかダンジョン攻略ツアーに参加してくださった方ですよね?」
「そうそう。水の洞窟と火の村アグニスの火山のときな」

 彼はダンジョン攻略ツアーの常連だ。傭兵稼業だからか魔獣退治に慣れている。大剣を軽々と振るう姿が頼もしかった。凄腕の戦士なのだ。
 傭兵は、にかっと笑った。

「もちろん今回の『ラストダンジョン攻略ツアー』も参加させてもらうぜ。腕が鳴るな」
「頼りにしてるぜ、おっさん」
「おうよ!」

 アベルと傭兵が親指を立て合っている。チームワークはばっちりだ。
 最後に竜人の男性が人好きのする笑顔を浮かべる。

「初めまして。ラルフ様の命で馳せ参じたしがない竜人だ。お手柔らかに!」
「真面目にやれよ」
「わかってますってば!」

 ラルフに忠告されて、竜人の青年がへらへら笑っている。なんだか緊張感のない飄々とした雰囲気だ。竜人の恐ろしさがない。とっつきやすそうな青年だった。
 ケルヴィンが人数を数える。

「――最終的な人数を確認いたします。お名前はあとで伺います。ラストダンジョン攻略ツアーの参加者は、セシリーナお嬢様、アベル、ヒース様、ラルフ様、フィオナ様、近衛騎士様、異国の戦士殿、傭兵殿、竜人殿、そして私の十名ですね」
「なかなか壮観な面子だね」

 ヒースの言うとおりだった。彼らなら『星を喰らう魔獣』の秘密を守ってくれそうだ。信頼に足る仲間だった。
 セシリーナは手を叩く。

「それでは皆様にはワールドツーリスト社の王都支店に移動していただきます。そこでツアー内容の詳細をお話しいたします」

 ラストダンジョンに挑むメンバーが決まった。あとは勝つのみ。勝負の時だった。