さっそく翌日の王城では緊急会議が催された。セシリーナが考案した『ラストダンジョン攻略ツアー』について検討するためだ。
広く有能な人材を集められるということで、政策は満場一致で施行されることとなった。国を挙げて大々的に宣伝することになり、各方面の有力者がすぐに動き出す。人材募集にかける期間は三日間ほど。これから慌ただしくなりそうだった。セシリーナは企画の代表者として各方面の進捗確認が主な仕事となった。
謁見の間での会議を終え、王都支店にいったん資料を持ち帰ろうとセシリーナが中庭に差し掛かったときだった。
「アベルハルト様、これからお忙しくなりますわね」
「あのセシリーナ・シュミットとかいう田舎の伯爵令嬢に強引にお仕事を頼まれていらっしゃるのではありませんこと?」
「アベルハルト様は皆の聖騎士でいらっしゃるのに、我が物顔で自分の物のように扱うなど、おこがましいにも程がありますわ」
「旅行事業が国策になったくらいで調子に乗りすぎですのよ」
(はあ、くだらない……)
中庭から聞こえてきた噂話。自分の悪口だと気づいてセシリーナは溜め息をついた。
庭の片隅で、案の定、貴族の令嬢たちにアベルが囲まれている。令嬢たちに一方的に話しかけられているようだった。
無視無視、とセシリーナは踵を返して別の道を通ることに決める。すると、背中越しにアベルのよく通る声が聞こえた。
「いい加減にしないか。貴方たちに彼女を愚弄する資格はないだろう」
(アベル……)
彼はひどく怒っているようだった。怒りを抑えた静かな口調だけれども。それが逆に彼が心底怒り心頭であることを物語っている。
セシリーナは思わず足を止める。
「彼女は私の大切な女性だ。彼女を蔑むことは私を蔑むことと同義。金輪際、彼女を貶めることは私が許さない」
「え……」
「ア、アベル様……」
「わたくしたち、けっしてそんなつもりでは……」
「い。行きましょう、皆さま」
令嬢たちの間に明らかに動揺が広がる。そのまま雲の子を散らすように皆その場から去っていった。
残されたアベルは前髪をかきあげる。
「ふう。まったく世話の焼ける……」
「アベル!」
「うえっ!? セシィ、いたのか!?」
セシリーナは嬉しくなってついアベルに声をかける。こちらの存在にまったく気がついていなかったらしいアベルが素っ頓狂な声を上げた。さきほど凛々しく言い放っていた彼とは思えない間の抜けた表情。その油断した顔を自分に見せてくれることが嬉しかった。
「なんだよ。もしかしてさっきの聞いてたのか?」
「うん」
「あっそう。お嬢様方の世間知らずぶりには辟易する。今は人のことをどうこう言っている状況じゃないってわからねぇのかな」
「彼女たちは、そういう世論から遠ざけられて生きてきた人たちだから」
「……まぁ、な。俺とは合わない人種だ」
「あれだけきゃあきゃあ言われておいて!」
苦笑いをすると、アベルがひとつ咳払いをする。
「俺はおまえに愛されていればそれでいい。他にはなにもいらないんだ」
「愛っ……!」
両想いになってからというもの、彼の惚気ぶりに歯止めが効いていない気がする。突然言われる甘い言葉が心臓に悪い。
(それだけ彼に愛されてるってことなんだろうけど……)
幸せだけれど、恥ずかしい。臆面もなく向けられる愛情に。
恥ずかしくて縮こまっていると、アベルが手を伸ばしてセシリーナの髪を梳く。
「言いたいやつには言わせておけばいいんだ。俺たちはそんなことに構っていられない。なすべきことがあるんだから」
「うん……」
おとなしくアベルに髪を触られたまま、セシリーナが幸せそうに頷いたときだった。
「あぁーっ、先輩と聖騎士様、ラブラブじゃないですかぁ!」
「ふたりともそのような関係だったのか」
フィオナとラルフが連れたってやってくる。み、見られてしまった……。
アベルがふんぞり返る。
「こいつは俺の恋人だからな。手出しは無用」
「ああ、いいなあお二人とも! アベル様、セシィ先輩は優しくって明るくって頑張り屋さんで最高に素敵な人なので、絶対に幸せにしてくださいね!」
「言われなくとも!」
「先輩を泣かせたらわたし、許しませんからね! 聖女の力でアベル様を浄化しますから」
「俺、魔獣じゃないから……」
フィオナとアベルが楽しそうに言い合っている。ラルフがそんなフィオナのことを、呆れたふうな目線で優しく見つめていた。
最初、フィオナはラルフに強引に捉えられていたと思ったけれど、実際は無下に扱われずに大事にされていたのかもしれない。フィオナとラルフの間には信頼関係が感じられた。
ラルフが腕を組んでセシリーナを見やる。
「……それで、ラストダンジョン攻略ツアーだったか? あいかわらず突飛なことを思いつくものだな」
「お褒めのお言葉ありがとうございます」
「強者の仲間を集っているのだったな。それでは私も協力させてもらおう。自国から配下を連れてまいる」
「配下って、竜王のか!?」
アベルがのけ反る。竜王の配下ということは魔獣に連なる者たちだろうか。
ラルフがなにを驚くとばかりに頷いた。
「他に誰がいるのだ。魔獣の中でも竜人と呼ばれる高位の種族がいるのだ。私もその竜人のひとりなわけだが。竜人の者から選りすぐりの戦士を連れてくる。彼らは人間と同じく人語を解し、知能も高い。良い戦力になるはずだ」
言うが早いが、ラルフは手招きをしてフィオナを呼び寄せる。迷いなく彼女を抱き上げると、そのまま翼をはためかせて空の彼方へと飛び去っていった。
小さくなっていく後ろ姿をアベルがぽかんと見つめる。
「す、すげえ……。行動に迷いがない」
「たしかに。思い立ったら即行動を体現したような人ですね、ラルフって」
「それだけ自分に自信があるんだろう。俺たちも負けていられないな」
アベルと目線を見交わして笑い合う。
みんなが平和を守るために動いている。一致団結の絆を感じて胸が温かくなった。
広く有能な人材を集められるということで、政策は満場一致で施行されることとなった。国を挙げて大々的に宣伝することになり、各方面の有力者がすぐに動き出す。人材募集にかける期間は三日間ほど。これから慌ただしくなりそうだった。セシリーナは企画の代表者として各方面の進捗確認が主な仕事となった。
謁見の間での会議を終え、王都支店にいったん資料を持ち帰ろうとセシリーナが中庭に差し掛かったときだった。
「アベルハルト様、これからお忙しくなりますわね」
「あのセシリーナ・シュミットとかいう田舎の伯爵令嬢に強引にお仕事を頼まれていらっしゃるのではありませんこと?」
「アベルハルト様は皆の聖騎士でいらっしゃるのに、我が物顔で自分の物のように扱うなど、おこがましいにも程がありますわ」
「旅行事業が国策になったくらいで調子に乗りすぎですのよ」
(はあ、くだらない……)
中庭から聞こえてきた噂話。自分の悪口だと気づいてセシリーナは溜め息をついた。
庭の片隅で、案の定、貴族の令嬢たちにアベルが囲まれている。令嬢たちに一方的に話しかけられているようだった。
無視無視、とセシリーナは踵を返して別の道を通ることに決める。すると、背中越しにアベルのよく通る声が聞こえた。
「いい加減にしないか。貴方たちに彼女を愚弄する資格はないだろう」
(アベル……)
彼はひどく怒っているようだった。怒りを抑えた静かな口調だけれども。それが逆に彼が心底怒り心頭であることを物語っている。
セシリーナは思わず足を止める。
「彼女は私の大切な女性だ。彼女を蔑むことは私を蔑むことと同義。金輪際、彼女を貶めることは私が許さない」
「え……」
「ア、アベル様……」
「わたくしたち、けっしてそんなつもりでは……」
「い。行きましょう、皆さま」
令嬢たちの間に明らかに動揺が広がる。そのまま雲の子を散らすように皆その場から去っていった。
残されたアベルは前髪をかきあげる。
「ふう。まったく世話の焼ける……」
「アベル!」
「うえっ!? セシィ、いたのか!?」
セシリーナは嬉しくなってついアベルに声をかける。こちらの存在にまったく気がついていなかったらしいアベルが素っ頓狂な声を上げた。さきほど凛々しく言い放っていた彼とは思えない間の抜けた表情。その油断した顔を自分に見せてくれることが嬉しかった。
「なんだよ。もしかしてさっきの聞いてたのか?」
「うん」
「あっそう。お嬢様方の世間知らずぶりには辟易する。今は人のことをどうこう言っている状況じゃないってわからねぇのかな」
「彼女たちは、そういう世論から遠ざけられて生きてきた人たちだから」
「……まぁ、な。俺とは合わない人種だ」
「あれだけきゃあきゃあ言われておいて!」
苦笑いをすると、アベルがひとつ咳払いをする。
「俺はおまえに愛されていればそれでいい。他にはなにもいらないんだ」
「愛っ……!」
両想いになってからというもの、彼の惚気ぶりに歯止めが効いていない気がする。突然言われる甘い言葉が心臓に悪い。
(それだけ彼に愛されてるってことなんだろうけど……)
幸せだけれど、恥ずかしい。臆面もなく向けられる愛情に。
恥ずかしくて縮こまっていると、アベルが手を伸ばしてセシリーナの髪を梳く。
「言いたいやつには言わせておけばいいんだ。俺たちはそんなことに構っていられない。なすべきことがあるんだから」
「うん……」
おとなしくアベルに髪を触られたまま、セシリーナが幸せそうに頷いたときだった。
「あぁーっ、先輩と聖騎士様、ラブラブじゃないですかぁ!」
「ふたりともそのような関係だったのか」
フィオナとラルフが連れたってやってくる。み、見られてしまった……。
アベルがふんぞり返る。
「こいつは俺の恋人だからな。手出しは無用」
「ああ、いいなあお二人とも! アベル様、セシィ先輩は優しくって明るくって頑張り屋さんで最高に素敵な人なので、絶対に幸せにしてくださいね!」
「言われなくとも!」
「先輩を泣かせたらわたし、許しませんからね! 聖女の力でアベル様を浄化しますから」
「俺、魔獣じゃないから……」
フィオナとアベルが楽しそうに言い合っている。ラルフがそんなフィオナのことを、呆れたふうな目線で優しく見つめていた。
最初、フィオナはラルフに強引に捉えられていたと思ったけれど、実際は無下に扱われずに大事にされていたのかもしれない。フィオナとラルフの間には信頼関係が感じられた。
ラルフが腕を組んでセシリーナを見やる。
「……それで、ラストダンジョン攻略ツアーだったか? あいかわらず突飛なことを思いつくものだな」
「お褒めのお言葉ありがとうございます」
「強者の仲間を集っているのだったな。それでは私も協力させてもらおう。自国から配下を連れてまいる」
「配下って、竜王のか!?」
アベルがのけ反る。竜王の配下ということは魔獣に連なる者たちだろうか。
ラルフがなにを驚くとばかりに頷いた。
「他に誰がいるのだ。魔獣の中でも竜人と呼ばれる高位の種族がいるのだ。私もその竜人のひとりなわけだが。竜人の者から選りすぐりの戦士を連れてくる。彼らは人間と同じく人語を解し、知能も高い。良い戦力になるはずだ」
言うが早いが、ラルフは手招きをしてフィオナを呼び寄せる。迷いなく彼女を抱き上げると、そのまま翼をはためかせて空の彼方へと飛び去っていった。
小さくなっていく後ろ姿をアベルがぽかんと見つめる。
「す、すげえ……。行動に迷いがない」
「たしかに。思い立ったら即行動を体現したような人ですね、ラルフって」
「それだけ自分に自信があるんだろう。俺たちも負けていられないな」
アベルと目線を見交わして笑い合う。
みんなが平和を守るために動いている。一致団結の絆を感じて胸が温かくなった。

