アベルが代表して『星を喰らう魔獣』の説明を終えると――場内はしんと静まり返った。誰もが微動だにしないほどの沈黙。皆が皆、信じられないという顔つきをしていた。
話の口火を切ったのはシュミット伯爵だった。
「創世の女神がその『星を喰らう魔獣』に対抗するために聖騎士と竜王の仕組みを造り出したのか。そのような魔物が世界の地下都市に存在していようとは……」
「女神はその怪物が孵化するまで我々人間の力をつけてくれていたというわけだな。そしてその魔物が殻を破る刻が迫っていると。儂が王位の代とは責任重大だな」
陛下は堂々とした落ち着きぶりだ。どっしりと構えながらこちらを見やる。
「世界の存続を賭けた戦いと言えるが、儂は心配してはおらん。なにせ今代は聖騎士アベル、竜王ラルフ、精霊使いセシリーナ、聖女フィオナ、魔法剣士ケルヴィン、神官ヒースという最強の布陣が揃っておるからな」
「身に余る光栄です。仲間たちと共に必ずや『星を喰らう魔獣』を討ち取ります」
アベルが胸に手を当てて誓う。それにあわせてセシリーナたちも頭を下げた。
シュミット伯爵が手を叩く。
「そうと決まりましたら、早急に軍備を整えねばなりませんな。アベルたちが大元の魔物との戦いに専念できるようにしなければなりますまい」
「それではアベルたちと共に地下都市に向かう精鋭部隊を結成いたしましょう。武具等の手配はサージェント商会にお任せください」
サージェント会長がどんと胸を叩く。話し合いは順調に進んでいくと思われた。けれど――。
ひとりの貴族が異を唱える。
「皆さま、お待ちください。とんとん拍子に話が進んでおりますが、私は反対です。竜王の力を借りるなど。長い歴史の中で敵対してきた相手だ。裏切らないとは限らない!」
「裏切るとは……この混乱を機に竜王が中央大陸を乗っ取るということか」
出席者たちの間にどよめきが起きる。
たしかに聖騎士率いる人間と竜王率いる魔獣は長い間領土争いを続けてきた。表向きはそうだけれど、裏向きは『星を喰らう魔獣』に対抗する力をつけるため――。
(けれど、いきなり真相を知らされて竜王と協力しろと言われて、はいそうですかと納得できるわけない。今までたくさんの犠牲を払ってきたのだから)
繰り返される聖騎士と竜王の争いの中で、皆大切な人や物を失ってきた。それは竜王側も同じだろう。いきなり手を組めというのも無理があったのかもしれない。
どうにか説得することはできないだろうか。こちらが一枚岩にならなければ女神でさえ手こずる魔物に勝てるはずがない。緊迫する場内。口を開いたのはアベルだった。
「……貴殿のお気持ちはよくわかります。俺もローレンス家の出身です。竜王には祖父や曽祖父、そのまた前と、歴代の聖騎士たちをたくさん傷つけられてきた。過去の因縁をそうほいほいと帳消しにするなんて都合のいいことはできない。それはわかります」
「では……!」
「けれども、俺は今までずっと不安だった。聖騎士として竜王を打ち倒せるのか。役目を果たすことができるのか。皆を守ることができるのか」
いつの間にか、誰もがアベルの言葉に聞き入っていた。
「がんじがらめの人生だった。俺には聖騎士の役目は重すぎて……。ましてや『星を喰らう魔獣』を相手取って戦うなんて足が竦みそうだ。俺は聖騎士である前に、ひとりの情けないアベル・ローレンスというただの人間だから。それを彼女が教えてくれました」
「アベル……」
アベルがセシリーナを見やる。彼は困ったような自然な笑みを浮かべていた。
大丈夫私がいるよ、そう伝えたくてセシリーナは大きく頷く。アベルが皆に向き直る。
「けれど俺は聖騎士だ。その役目から逃げることは叶わない。だからこんな情けない俺と一緒に戦ってくれる仲間が欲しい。自分はひとりじゃないと思えれば、俺は前を向いて闘っていける」
「アベル、なんだそれは。私を口説いているのか」
ぷ、と竜王ラルフが吹き出した。
アベルは拗ねて憮然としながらラルフに片手を出す。
「そうだ。俺ひとりじゃ無理だから一緒に戦ってほしい。仲間になってほしい。俺のわがままに付き合ってくれないか?」
「ふん、言われなくとも元よりそのつもりだ。私は強いぞ。私以上に頼りになる仲間はいないと断言してもいい。私の足を引っ張るなよ」
「はあ? 治癒魔法のひとつも使えないくせによく言うよ」
「私のように剣術と魔法の両刀使いになってから言ってほしいものですね」
ヒースとケルヴィンが憤慨しながら突っ込んでいる。アベルが差し出した手をラルフが握り、ふたりは固い握手を交わす。なんでも気兼ねなく言い合える良い仲間に巡り合えたと思った。きっとこの仲間たちがいれば強くなれる。
セシリーナはフィオナと目を合わせるとそっと笑い合った。宿敵だったアベルとラルフが仲良くしていて微笑ましかったから。
陛下が場を治めるように手を叩いた。
「良いものを見せてもらった。貴殿らの友情に賭けさせてもらおう。我らは今より竜王ラルフと和解し、彼を共闘する仲間に迎える。異存のある者はおらんな?」
「……彼らの友情をこの目でしかと見させていただきました。異存はありません」
さきほど異を唱えていた貴族が首を垂れる。竜王に謝罪するように。他の参加者たちも反論のある者はいないようだった。満場一致で竜王を仲間に迎えることが決まったのだ。歴史的な瞬間だった。
軍務を担当する大臣が片手を上げる。
「それでは、まずはアベル殿達と共に『星を喰らう魔獣』の元に向かう精鋭部隊を手配いたしましょう。忙しくなりますな」
「うむ、頼んだぞ。皆、有事の時だ。皆で力を合わせ、乗り切ろうぞ!」
陛下が鼓舞する。皆が一致団結をして天に拳を突き上げた。
話の口火を切ったのはシュミット伯爵だった。
「創世の女神がその『星を喰らう魔獣』に対抗するために聖騎士と竜王の仕組みを造り出したのか。そのような魔物が世界の地下都市に存在していようとは……」
「女神はその怪物が孵化するまで我々人間の力をつけてくれていたというわけだな。そしてその魔物が殻を破る刻が迫っていると。儂が王位の代とは責任重大だな」
陛下は堂々とした落ち着きぶりだ。どっしりと構えながらこちらを見やる。
「世界の存続を賭けた戦いと言えるが、儂は心配してはおらん。なにせ今代は聖騎士アベル、竜王ラルフ、精霊使いセシリーナ、聖女フィオナ、魔法剣士ケルヴィン、神官ヒースという最強の布陣が揃っておるからな」
「身に余る光栄です。仲間たちと共に必ずや『星を喰らう魔獣』を討ち取ります」
アベルが胸に手を当てて誓う。それにあわせてセシリーナたちも頭を下げた。
シュミット伯爵が手を叩く。
「そうと決まりましたら、早急に軍備を整えねばなりませんな。アベルたちが大元の魔物との戦いに専念できるようにしなければなりますまい」
「それではアベルたちと共に地下都市に向かう精鋭部隊を結成いたしましょう。武具等の手配はサージェント商会にお任せください」
サージェント会長がどんと胸を叩く。話し合いは順調に進んでいくと思われた。けれど――。
ひとりの貴族が異を唱える。
「皆さま、お待ちください。とんとん拍子に話が進んでおりますが、私は反対です。竜王の力を借りるなど。長い歴史の中で敵対してきた相手だ。裏切らないとは限らない!」
「裏切るとは……この混乱を機に竜王が中央大陸を乗っ取るということか」
出席者たちの間にどよめきが起きる。
たしかに聖騎士率いる人間と竜王率いる魔獣は長い間領土争いを続けてきた。表向きはそうだけれど、裏向きは『星を喰らう魔獣』に対抗する力をつけるため――。
(けれど、いきなり真相を知らされて竜王と協力しろと言われて、はいそうですかと納得できるわけない。今までたくさんの犠牲を払ってきたのだから)
繰り返される聖騎士と竜王の争いの中で、皆大切な人や物を失ってきた。それは竜王側も同じだろう。いきなり手を組めというのも無理があったのかもしれない。
どうにか説得することはできないだろうか。こちらが一枚岩にならなければ女神でさえ手こずる魔物に勝てるはずがない。緊迫する場内。口を開いたのはアベルだった。
「……貴殿のお気持ちはよくわかります。俺もローレンス家の出身です。竜王には祖父や曽祖父、そのまた前と、歴代の聖騎士たちをたくさん傷つけられてきた。過去の因縁をそうほいほいと帳消しにするなんて都合のいいことはできない。それはわかります」
「では……!」
「けれども、俺は今までずっと不安だった。聖騎士として竜王を打ち倒せるのか。役目を果たすことができるのか。皆を守ることができるのか」
いつの間にか、誰もがアベルの言葉に聞き入っていた。
「がんじがらめの人生だった。俺には聖騎士の役目は重すぎて……。ましてや『星を喰らう魔獣』を相手取って戦うなんて足が竦みそうだ。俺は聖騎士である前に、ひとりの情けないアベル・ローレンスというただの人間だから。それを彼女が教えてくれました」
「アベル……」
アベルがセシリーナを見やる。彼は困ったような自然な笑みを浮かべていた。
大丈夫私がいるよ、そう伝えたくてセシリーナは大きく頷く。アベルが皆に向き直る。
「けれど俺は聖騎士だ。その役目から逃げることは叶わない。だからこんな情けない俺と一緒に戦ってくれる仲間が欲しい。自分はひとりじゃないと思えれば、俺は前を向いて闘っていける」
「アベル、なんだそれは。私を口説いているのか」
ぷ、と竜王ラルフが吹き出した。
アベルは拗ねて憮然としながらラルフに片手を出す。
「そうだ。俺ひとりじゃ無理だから一緒に戦ってほしい。仲間になってほしい。俺のわがままに付き合ってくれないか?」
「ふん、言われなくとも元よりそのつもりだ。私は強いぞ。私以上に頼りになる仲間はいないと断言してもいい。私の足を引っ張るなよ」
「はあ? 治癒魔法のひとつも使えないくせによく言うよ」
「私のように剣術と魔法の両刀使いになってから言ってほしいものですね」
ヒースとケルヴィンが憤慨しながら突っ込んでいる。アベルが差し出した手をラルフが握り、ふたりは固い握手を交わす。なんでも気兼ねなく言い合える良い仲間に巡り合えたと思った。きっとこの仲間たちがいれば強くなれる。
セシリーナはフィオナと目を合わせるとそっと笑い合った。宿敵だったアベルとラルフが仲良くしていて微笑ましかったから。
陛下が場を治めるように手を叩いた。
「良いものを見せてもらった。貴殿らの友情に賭けさせてもらおう。我らは今より竜王ラルフと和解し、彼を共闘する仲間に迎える。異存のある者はおらんな?」
「……彼らの友情をこの目でしかと見させていただきました。異存はありません」
さきほど異を唱えていた貴族が首を垂れる。竜王に謝罪するように。他の参加者たちも反論のある者はいないようだった。満場一致で竜王を仲間に迎えることが決まったのだ。歴史的な瞬間だった。
軍務を担当する大臣が片手を上げる。
「それでは、まずはアベル殿達と共に『星を喰らう魔獣』の元に向かう精鋭部隊を手配いたしましょう。忙しくなりますな」
「うむ、頼んだぞ。皆、有事の時だ。皆で力を合わせ、乗り切ろうぞ!」
陛下が鼓舞する。皆が一致団結をして天に拳を突き上げた。

