英語。まさか前世の文字にお目にかかるとは思ってもいなかった。現世で使われている言語とはまったく違っているから。なぜ英語がこんなところに書かれているのだろう。
セシリーナは指を伸ばして、おそるおそる石柱の文字をなぞる。前世と現世には何らかの繋がりがあるのだろうか。自分が現世に転生したことは偶然ではなかったのだろうか。創世の女神は何か隠し事をしているのではないだろうか……。
女神を疑いたくはない。もちろん人を転生させるにあたって女神が包み隠さずに事情を伝える必要はない。それでも前世の文字が現世に存在する事実を目の当たりにすると疑念が浮かんでしまう。何か種明かしがあるのではないかと。
「…ッリーナ、セシリーナってば!」
「え、あ、はい!?」
ヒースに大きな声で呼びかけられてセシリーナは飛び跳ねた。どうやらいつの間にか考えに耽っていたらしい。ヒースが呆れて溜息を吐く。
「まったく、さっきから何度も呼んでいるんだけれど」
「え、ああ、ごめん、ちょっと考え事をしていて……」
「考え事って、その文字のことで合っている? あんた、それが読めるの?」
「はい、たぶん」
セシリーナが答えると、ヒースが目を瞬いた。大層驚いているようだ。いつも冷静な彼が一瞬言葉を失っている。ヒースが石柱に彫られた文字に視線を戻す。
「これは先住民が使っていた古代文字なんだ。今では知識が失われてしまって、もう読めるやつなんていないはずなのに」
「そう、なの? ヒースは事情を知っているからお伝えできるんですが、この文字は私が転生前に使っていたものです。英語といいます」
「英語? ……聞いたことないな」
ヒースが首を傾げている。完全に未知の文字らしい。
彼と一緒に石柱の文字を覗き込んでいると、彼が急にこちらに顔を向けた。近距離で目が合ってしまって、互いに飛びずさる。ヒースが気恥ずかしそうに明後日に視線を逸らす。
「ご、ごめん! 近かった……」
「こ、こちらこそ……」
なんだろう、ものすごく恥ずかしい。至近距離で見た彼の透き通るような青の瞳が目に焼き付いている。本当に整った顔立ちだと思う。絶世の美男子と言っても過言ではない。性格が意地悪なところも、見た目に反していてそれはそれで美点なのではないだろうか。
彼に目を奪われていると、彼がいよいよばつが悪そうに咳払いをする。
「……あんたさ、無自覚かもしれないけれど可愛らしいんだから気をつけなよ」
「へ?」
「そうやって無防備に男に顔を近づけるなってこと」
「あ、ああ、そっか、ごめんなさい」
へらっと謝りながらも、彼に『可愛らしい』と言ってもらえて嬉しかった。彼に好意的に見てもらえていることがわかったから。
ヒースが改めて石柱の文字に話題を戻す。
「よかったら教えてほしいんだけれど、この文字は何て書いてあるんだ?」
「『ちかのらくえんをたたえよ』かな」
「地下の楽園?」
「おそらく」
頷くと、ヒースは考え込んでいる様子だった。地下の楽園というものに聞き覚えがあるのだろうか。地下にある場所を示しているのか、それとも何かの比喩なのか。村を見回すと、所々に建てられている石柱に同様の文字――英語が彫られているようだ。文章の形状が違っているからひとつひとつ違うことが書かれているのだろう。端から訳していくしかなさそうだ。
セシリーナはヒースに提案する。
「ヒース、全部の文字を読むには時間がかかりそうです。先に村長さんのところに行ってもらったほうがいいかも」
「わかった。――それじゃセシリーナ、また後で」
手を振りながら去って行くヒースに、セシリーナは手を振り返す。
ひとり残されたセシリーナは、女神に対して生まれた疑念に胸騒ぎがした。
セシリーナは指を伸ばして、おそるおそる石柱の文字をなぞる。前世と現世には何らかの繋がりがあるのだろうか。自分が現世に転生したことは偶然ではなかったのだろうか。創世の女神は何か隠し事をしているのではないだろうか……。
女神を疑いたくはない。もちろん人を転生させるにあたって女神が包み隠さずに事情を伝える必要はない。それでも前世の文字が現世に存在する事実を目の当たりにすると疑念が浮かんでしまう。何か種明かしがあるのではないかと。
「…ッリーナ、セシリーナってば!」
「え、あ、はい!?」
ヒースに大きな声で呼びかけられてセシリーナは飛び跳ねた。どうやらいつの間にか考えに耽っていたらしい。ヒースが呆れて溜息を吐く。
「まったく、さっきから何度も呼んでいるんだけれど」
「え、ああ、ごめん、ちょっと考え事をしていて……」
「考え事って、その文字のことで合っている? あんた、それが読めるの?」
「はい、たぶん」
セシリーナが答えると、ヒースが目を瞬いた。大層驚いているようだ。いつも冷静な彼が一瞬言葉を失っている。ヒースが石柱に彫られた文字に視線を戻す。
「これは先住民が使っていた古代文字なんだ。今では知識が失われてしまって、もう読めるやつなんていないはずなのに」
「そう、なの? ヒースは事情を知っているからお伝えできるんですが、この文字は私が転生前に使っていたものです。英語といいます」
「英語? ……聞いたことないな」
ヒースが首を傾げている。完全に未知の文字らしい。
彼と一緒に石柱の文字を覗き込んでいると、彼が急にこちらに顔を向けた。近距離で目が合ってしまって、互いに飛びずさる。ヒースが気恥ずかしそうに明後日に視線を逸らす。
「ご、ごめん! 近かった……」
「こ、こちらこそ……」
なんだろう、ものすごく恥ずかしい。至近距離で見た彼の透き通るような青の瞳が目に焼き付いている。本当に整った顔立ちだと思う。絶世の美男子と言っても過言ではない。性格が意地悪なところも、見た目に反していてそれはそれで美点なのではないだろうか。
彼に目を奪われていると、彼がいよいよばつが悪そうに咳払いをする。
「……あんたさ、無自覚かもしれないけれど可愛らしいんだから気をつけなよ」
「へ?」
「そうやって無防備に男に顔を近づけるなってこと」
「あ、ああ、そっか、ごめんなさい」
へらっと謝りながらも、彼に『可愛らしい』と言ってもらえて嬉しかった。彼に好意的に見てもらえていることがわかったから。
ヒースが改めて石柱の文字に話題を戻す。
「よかったら教えてほしいんだけれど、この文字は何て書いてあるんだ?」
「『ちかのらくえんをたたえよ』かな」
「地下の楽園?」
「おそらく」
頷くと、ヒースは考え込んでいる様子だった。地下の楽園というものに聞き覚えがあるのだろうか。地下にある場所を示しているのか、それとも何かの比喩なのか。村を見回すと、所々に建てられている石柱に同様の文字――英語が彫られているようだ。文章の形状が違っているからひとつひとつ違うことが書かれているのだろう。端から訳していくしかなさそうだ。
セシリーナはヒースに提案する。
「ヒース、全部の文字を読むには時間がかかりそうです。先に村長さんのところに行ってもらったほうがいいかも」
「わかった。――それじゃセシリーナ、また後で」
手を振りながら去って行くヒースに、セシリーナは手を振り返す。
ひとり残されたセシリーナは、女神に対して生まれた疑念に胸騒ぎがした。

