【書籍化】聖騎士様と始める異世界旅行事業 ~旅行会社の会社員でしたが異世界に転生したので起業します~

 オアシスでの小休憩を終えた後、一行はその日の夕暮れに目的地である火の村アグニスに到着した。炎天下の中を馬を飛ばして来たためか、人も馬もへとへとであった。
 砂漠の夜は急に涼しくなる。砂丘に赤々とした太陽が沈むのを背に、一行が肌寒さを感じながら村に着くと、村びとたちはすぐに羽織りものを配ってくれた。羽織には独特の幾何学模様の刺繍が施されている。地方民族特有の美しい意匠だった。
 羽織ものを受け取って、セシリーナは出迎えてくれた村びとに笑いかける。

「お出迎え誠にありがとうございます。わたくしは、ワールドツーリスト社社長のセシリーナ・シュミットと申します」
「ようこそおいでくださいました。遠路はるばる大変だったでしょう?」
「いえ。途中オアシスに寄ったりしてとても楽しかったです」
「それはよかった。村長を呼んでまいります。少々お待ちくださいね」

 村びとの中年女性はそう答えると、村長の家と思われる一際大きな建物へ歩いて行った。
 残されたセシリーナは、厩舎へ仕舞われていく馬車を見送りつつ周囲を見渡す。改めて村を観察すると、暑さ対策のためか家々は石造りの四角いのっぺりした建物ばかりだった。そこに石壁を切り取った小さな明かり取りの窓が付けられている。他にも村のあちこちに石柱が立てられていて、その柱には火が灯されていた。
 村を往く人々は、風通しの良さそうな白い麻の長衣に腰には赤や青や緑といった鮮やかな色のサッシュを巻いている。頭には砂除けの布を被り、足元は紐を編んだサンダルを履いていた。王都では見ない服装だ。異国情緒溢れる景観にわくわくする。
 景色に見入っていると、村長と思われる老人がセシリーナの元にやって来た。

「村は気に入っていただけましたかな?」
「ええ、はい、もちろんです! このたびはお招きくださりありがとうございます」
「こちらこそ。このような辺鄙な村を観光地に選んでくださり感謝しておりますぞ」

 村長が、白い眉毛に覆われた目を優しく細めた。物腰の柔らかな老人だ。他の村人たちもとても親切そうであるし、今回の旅も楽しいものになりそうだ。
 セシリーナと挨拶を終えたところで、村長がふと旅行者たちの一角に目をやる。

「つかぬことをお聞きいたしますが。あちらにいらっしゃるのはクラーク一族のご子息でいらっしゃいますかな?」
「ああ、ヒースのことですね。そうですが、彼に何か?」
「なに、大したことではないのですがヒース様に直接お伝えしたい話があるのです」
「話、ですか。わかりました。彼に確認を取ってみます」
「お気遣い感謝いたします」

 村長は目に皺を刻んでにこりと笑んだ。セシリーナに頭を下げると、そのまま他の旅行客に挨拶回りをしに去って行く。
 今の話、村長は大した用件ではないと言っていたけれどおそらくヒースにとって大切な話である気がする。村長が改まって提案してきたわけだから。それに彼自身もこの村で調べたいことがあると言っていた。おそらくそれに関係するのではないだろうか。
 セシリーナは、興味深そうに石柱の装飾を眺めているヒースに駆け寄る。

「ヒース! ちょっといいですか?」
「うわ、びっくりした! いきなり話しかけないでくれる?」
「ごめんごめん。村長さんが呼んでいるのでそれを伝えようと思って」
「ありがとう。村長から呼び出しか。意味深だね」

 ヒースが興味深そうに言いながら踵を返そうとする。そのとき、セシリーナは彼が見ていた石柱の装飾に何気なく目が行く。

「あれ、この柱の模様ってよく見ると文字ですよね?」
「よくわかったね。先住民が用いていた古代文字だと思うけれど」
「古代文字……」

 石柱に細かく刻み込まれた模様。長い年月が経過しているのか、苔に覆われていてはっきりと読むことはできない。けれどもなぜだろう、自分はこの文字を知っている気がするのだ。おそらく前世で。前世では日常的に使われる文字だった。
 思いだした。そうだ、この文字は――

「英語……。そうだ、この文字、英語だ!」