名物のバナナジュースを二つ購入したセシリーナ。意気揚々とユリアの元に駆け戻った。彼女は湖畔の椰子の木の木陰で絹の敷き物の上に腰かけていた。自前のレジャーシートなのだろう。とても優雅で絵になっている。
「ユリア、お待ちどうさま!」
「おかえりなさいませ。まあ! 美味しそうなジュースですわね」
「この町の名物なんですって。おひとつどうぞ」
「ありがとう」
セシリーナはユリアにジュースを渡して、二人は並んで敷き物の上に座る。あいかわらず頭上の太陽はじりじりと遠慮のない日差しだ。けれども、その陽光を受けてきらきら輝く湖面や吹き抜ける風にそよぐ椰子の葉擦れの音が心地よい。
ユリアがジュースを一口含む。
「あら、冷たくてとても美味しいわ! 砕いた氷が入っておりますのね」
「暑い地域ならではの飲み物って感じだよね」
セシリーナもどれどれと飲んでみると、シャラシャラとした小さな氷がバナナの甘さと一緒に口の中で溶けていった。暑さにまいっていた体にキンと冷える飲み物――最高すぎる!
セシリーナは、にこにこと上機嫌なユリアの様子を見る。
「ユリア、旅行はどう? 楽しんでもらえている?」
「ええ、もちろん。わたくし、侯爵家というものに生まれてしまった手前、なかなか自由の身にはなれなくて……。だから今は何をするにも自由で、特別な時間に感じておりますの」
「そっか。少しでも良い思い出になってくれたら嬉しい」
ユリアに笑みかけると、彼女も微笑み返してくれた。彼女は幼い頃から、どこか窮屈で縛られた人生だったのだろう。それは侯爵令嬢という身分だから仕様のないこと。きっと半分諦めていたのだろう。その分、何不自由ない生活を送れているのだから。けれども観光旅行をきっかけに、少しでもその窮屈さから抜け出せたのならよかったと思う。彼女の支えになれたことがセシリーナは純粋に嬉しかった。彼女は大切な友だちだから。
ユリアがおもむろにジュースの入ったグラスを持ち上げる。
「セシィ、よかったら乾杯いたしましょう!」
「か、乾杯?」
「ええ! 今日の良き日の思い出に、ね?」
いたずらっぽく片眼をつむるユリア。お茶目な発想が可愛らしかった。今日のこの幸せな時間に感謝しよう。こんな日がいつまでも続くと願って――
「乾杯!」
グラスを合わせる軽やかな音が、オアシスの青空に昇っていった。
厩舎で馬の体を拭いてやりながら、アベルは額の汗を拭った。まだまだ火の村アグニスまでの行程は長い。気を抜くわけにはいかない。それに、以前遠征に来たときよりも魔獣の数が増えている。普段夜間にした出現しない強力な魔獣を昼間にも見かけたのだ。確実に危険度が増している。
「……それに、竜王はなぜあれから姿を現さないんだ。中央大陸に攻め込む下準備でもしているのか?」
「アベル、アベル、そんなに思いつめないでください。手が止まっていますよ」
「あ、やべ!」
同じく馬に飼い葉を与えていたケルヴィンに窘められて、アベルは我に返る。いつの間にか馬の体を拭く手が止まっていたらしい。馬が不服そうに鼻を鳴らす。
別の馬に飲み水を与えていたヒースが戻って来る。
「竜王のことは考えても仕方がないんじゃない。どこに潜伏しているのか知らないけれど」
「そうだな。俺たちは自分たちにできることを一つ一つやるしかないか」
「まあね」
ヒースは軽く答えながらも、どこか考え込んでいる様子だった。アベルとケルヴィンは顔を見合わせる。ケルヴィンが遠慮がちに聞く。
「……ヒース様、なにか悩んでいることがおありなのですか?」
「え? いや、まぁ、うん、そうだね」
「おまえにしてはずいぶん歯切れが悪いな」
アベルが突っ込む。ヒースは少し逡巡してから、小さく口を開いた。
「……いや、アグニスに僕が長年探しているものがあるかもしれなくてね。少しだけ緊張しているんだ」
「それはもしかして、おまえのクラーク一族に関するものなのか?」
「勘が良いね。その通り」
アベルの問いかけに、ヒースは苦虫を嚙み潰したような顔をした。これ以上聞いてほしくない、そう体現しているようだった。アベルとケルヴィンは再度顔を見合わせる。今度はアベルが言う。
「まぁ、聞いてほしくねぇならあえて聞かねぇよ。見つかるといいな、おまえの探しもの」
「あ……」
「ええ。ご必要でしたらいつでもお力になりますので、声をおかけください」
ケルヴィンも微笑んで小さく頭を下げる。二人とも優しかった。ヒースは、自分にも甘えて頼れる仲間ができたのではないかと――……初めてそう感じていた。
ヒースは、いたずらっぽい笑顔を二人に向ける。
「ありがとう。何かあったときは、頼らせてほしい」
「うっわ、おまえそんなふうにも笑えるんだな!」
「初めて拝見いたしました」
「どういう意味」
アベルとケルヴィンが恐れおののく。それにヒースが憤慨して――絆の深まった三人の笑い声が明るく響き渡っていった。
「ユリア、お待ちどうさま!」
「おかえりなさいませ。まあ! 美味しそうなジュースですわね」
「この町の名物なんですって。おひとつどうぞ」
「ありがとう」
セシリーナはユリアにジュースを渡して、二人は並んで敷き物の上に座る。あいかわらず頭上の太陽はじりじりと遠慮のない日差しだ。けれども、その陽光を受けてきらきら輝く湖面や吹き抜ける風にそよぐ椰子の葉擦れの音が心地よい。
ユリアがジュースを一口含む。
「あら、冷たくてとても美味しいわ! 砕いた氷が入っておりますのね」
「暑い地域ならではの飲み物って感じだよね」
セシリーナもどれどれと飲んでみると、シャラシャラとした小さな氷がバナナの甘さと一緒に口の中で溶けていった。暑さにまいっていた体にキンと冷える飲み物――最高すぎる!
セシリーナは、にこにこと上機嫌なユリアの様子を見る。
「ユリア、旅行はどう? 楽しんでもらえている?」
「ええ、もちろん。わたくし、侯爵家というものに生まれてしまった手前、なかなか自由の身にはなれなくて……。だから今は何をするにも自由で、特別な時間に感じておりますの」
「そっか。少しでも良い思い出になってくれたら嬉しい」
ユリアに笑みかけると、彼女も微笑み返してくれた。彼女は幼い頃から、どこか窮屈で縛られた人生だったのだろう。それは侯爵令嬢という身分だから仕様のないこと。きっと半分諦めていたのだろう。その分、何不自由ない生活を送れているのだから。けれども観光旅行をきっかけに、少しでもその窮屈さから抜け出せたのならよかったと思う。彼女の支えになれたことがセシリーナは純粋に嬉しかった。彼女は大切な友だちだから。
ユリアがおもむろにジュースの入ったグラスを持ち上げる。
「セシィ、よかったら乾杯いたしましょう!」
「か、乾杯?」
「ええ! 今日の良き日の思い出に、ね?」
いたずらっぽく片眼をつむるユリア。お茶目な発想が可愛らしかった。今日のこの幸せな時間に感謝しよう。こんな日がいつまでも続くと願って――
「乾杯!」
グラスを合わせる軽やかな音が、オアシスの青空に昇っていった。
厩舎で馬の体を拭いてやりながら、アベルは額の汗を拭った。まだまだ火の村アグニスまでの行程は長い。気を抜くわけにはいかない。それに、以前遠征に来たときよりも魔獣の数が増えている。普段夜間にした出現しない強力な魔獣を昼間にも見かけたのだ。確実に危険度が増している。
「……それに、竜王はなぜあれから姿を現さないんだ。中央大陸に攻め込む下準備でもしているのか?」
「アベル、アベル、そんなに思いつめないでください。手が止まっていますよ」
「あ、やべ!」
同じく馬に飼い葉を与えていたケルヴィンに窘められて、アベルは我に返る。いつの間にか馬の体を拭く手が止まっていたらしい。馬が不服そうに鼻を鳴らす。
別の馬に飲み水を与えていたヒースが戻って来る。
「竜王のことは考えても仕方がないんじゃない。どこに潜伏しているのか知らないけれど」
「そうだな。俺たちは自分たちにできることを一つ一つやるしかないか」
「まあね」
ヒースは軽く答えながらも、どこか考え込んでいる様子だった。アベルとケルヴィンは顔を見合わせる。ケルヴィンが遠慮がちに聞く。
「……ヒース様、なにか悩んでいることがおありなのですか?」
「え? いや、まぁ、うん、そうだね」
「おまえにしてはずいぶん歯切れが悪いな」
アベルが突っ込む。ヒースは少し逡巡してから、小さく口を開いた。
「……いや、アグニスに僕が長年探しているものがあるかもしれなくてね。少しだけ緊張しているんだ」
「それはもしかして、おまえのクラーク一族に関するものなのか?」
「勘が良いね。その通り」
アベルの問いかけに、ヒースは苦虫を嚙み潰したような顔をした。これ以上聞いてほしくない、そう体現しているようだった。アベルとケルヴィンは再度顔を見合わせる。今度はアベルが言う。
「まぁ、聞いてほしくねぇならあえて聞かねぇよ。見つかるといいな、おまえの探しもの」
「あ……」
「ええ。ご必要でしたらいつでもお力になりますので、声をおかけください」
ケルヴィンも微笑んで小さく頭を下げる。二人とも優しかった。ヒースは、自分にも甘えて頼れる仲間ができたのではないかと――……初めてそう感じていた。
ヒースは、いたずらっぽい笑顔を二人に向ける。
「ありがとう。何かあったときは、頼らせてほしい」
「うっわ、おまえそんなふうにも笑えるんだな!」
「初めて拝見いたしました」
「どういう意味」
アベルとケルヴィンが恐れおののく。それにヒースが憤慨して――絆の深まった三人の笑い声が明るく響き渡っていった。

