その後、ワールドツーリスト社の次なる企画『南国周遊ツアー』が本格的に始動した。
ケルヴィンの詳しい調査によると、南国には火の村アグニスという古来から存在する村があるらしく――。その村では火の精霊の信仰が残っているそうだ。村の近隣にある火山に火の精霊イフリートが生息していると言い伝えられているらしい。
「火山かぁ。いかにも火の精霊がいそうな感じ」
王都中央広場の掲示板にポスターを貼りながら、セシリーナは呟く。
火の村アグニスは辺境部族が暮らす土地柄ではあるけれども、観光客大歓迎の意向であるらしい。保守的であったり閉鎖的であったりするわけではないようだ。あらかじめケルヴィンが村長にコンタクトを取った際、二つ返事で観光の許可を出してくれたらしい。王都からの観光客を迎えるため、すでに受け入れ準備を始めてくれているとのことだった。
また、今回の南国周遊ツアーでは初の試みをする予定だ。それは、村の観光スケジュールにプラスして火山探検のスケジュールも組み込んでいるのだ。つまり、観光ツアー&ダンジョン攻略ツアーを同時進行する予定なのである。もちろん火山探検は自由参加だ。つまり、村の観光目的の一般の人びとに加えてダンジョン攻略を目的とする傭兵や冒険者も集客しようという算段である。
「あざとすぎる計画。これはもう予約殺到間違いなしですよね!」
「……街中でそういう悪い顔しないでくれるかな」
「うげ! ヒース、いつの間に後ろに……?」
ポスターを貼っていた自分の背後に、いつの間にやらヒースが佇んでいた。相変わらずのジト目でこちらを睨んでいる。彼は元々が美青年だから睨まれると迫力が凄い。
セシリーナはまだ貼り終えていないポスターの在庫をヒースに突き出す。
「ちょうどよかった。ヒース、ポスター貼るの手伝ってもらってもいいですか?」
「別にいいけれど。僕、あんたに話があって出向いてきたんだよね」
「話?」
並んでポスターを貼り始めたヒースの横顔に、セシリーナは問いかける。
それにしても本当に綺麗な顔立ちだ。まつ毛は長いし、青い瞳は切れ長だし。銀色の髪はサラサラだ。これで身分は次期教皇候補だと言うのだから意地悪な性格以外は非の打ち所がない。
じっと見つめていた視線に気がついたのかヒースがこちらを振り返る。
「……そんなに人の顔じろじろ見ないでくれる?」
「ご、ごめん、ごめん! それで、ええと、話って?」
「ああ。火の村アグニスのことなんだけれどさ」
「次の南国周遊ツアーで行く?」
「そう。アグニスは中央大陸でもっとも古い村だと言われているんだよね。それは知っている?」
ヒースの質問にセシリーナは頷いた。この世界は南方の土地が起源と伝えられていた。南方の原住民が徐々に町や村を開拓して今の中央大陸が出来上がったと言われているのだ。
ヒースは自分に何を伝えようとしているのだろう。
セシリーナは話の続きを目で促す。ヒースが手を止めた。
「だから、アグニスにはこの世界の起源が記された記録や文献が残っていると思う」
「この世界の起源――……あ!」
ヒースの言わんとしていることを察してセシリーナも手を止める。この世界誕生の根幹に触れる文書を調べることができれば、聖騎士と竜王のことが記されている可能性がある。聖騎士と竜王は何故戦わなければならず、竜王は何故何度も復活するのかも。
ヒースが自分の胸に手を当てる。
「もちろん、僕の出自であるクラーク一族の詳しい記述も書かれているはずだ。僕が何者であるのか、何故あんたが転生者だと知っているのか、何故僕があんたに協力しようと思ったのかがわかると思う」
「そっか。以前ヒースが『この世界の仕組みを変えたい』って言った意味がわかるってことですね?」
「おそらくは」
ヒースが歯にものが挟まったような言い方をする。彼自身もはっきりとはわからないのかもしれない。アグニスに古い文献が残っているかどうか定かではないから。それでもアグニスに行けば近づけるかもしれない。自分たちが今疑問に思っていること、その答えに。
自分の分のポスターを貼り終えたのか、ヒースが踵を返す。
「あんたに伝えたかった話はそれだけ」
「ありがとう。大事なことを伝えに来てくれて。私たちが探し求めている答えが見つかるといいですね」
「うん。僕もアグニスで調べたいことがあるんだ。連れて行ってほしい」
「もちろんです!」
弾けるように笑むと、ヒースも歯を見せてにっと笑い返してくれた。
ああ、彼ってあんなにも少年みたいな素直な笑顔もできるんだな。
不意打ちの彼の表情に、セシリーナは心臓が飛び跳ねてしまうのだった。
ケルヴィンの詳しい調査によると、南国には火の村アグニスという古来から存在する村があるらしく――。その村では火の精霊の信仰が残っているそうだ。村の近隣にある火山に火の精霊イフリートが生息していると言い伝えられているらしい。
「火山かぁ。いかにも火の精霊がいそうな感じ」
王都中央広場の掲示板にポスターを貼りながら、セシリーナは呟く。
火の村アグニスは辺境部族が暮らす土地柄ではあるけれども、観光客大歓迎の意向であるらしい。保守的であったり閉鎖的であったりするわけではないようだ。あらかじめケルヴィンが村長にコンタクトを取った際、二つ返事で観光の許可を出してくれたらしい。王都からの観光客を迎えるため、すでに受け入れ準備を始めてくれているとのことだった。
また、今回の南国周遊ツアーでは初の試みをする予定だ。それは、村の観光スケジュールにプラスして火山探検のスケジュールも組み込んでいるのだ。つまり、観光ツアー&ダンジョン攻略ツアーを同時進行する予定なのである。もちろん火山探検は自由参加だ。つまり、村の観光目的の一般の人びとに加えてダンジョン攻略を目的とする傭兵や冒険者も集客しようという算段である。
「あざとすぎる計画。これはもう予約殺到間違いなしですよね!」
「……街中でそういう悪い顔しないでくれるかな」
「うげ! ヒース、いつの間に後ろに……?」
ポスターを貼っていた自分の背後に、いつの間にやらヒースが佇んでいた。相変わらずのジト目でこちらを睨んでいる。彼は元々が美青年だから睨まれると迫力が凄い。
セシリーナはまだ貼り終えていないポスターの在庫をヒースに突き出す。
「ちょうどよかった。ヒース、ポスター貼るの手伝ってもらってもいいですか?」
「別にいいけれど。僕、あんたに話があって出向いてきたんだよね」
「話?」
並んでポスターを貼り始めたヒースの横顔に、セシリーナは問いかける。
それにしても本当に綺麗な顔立ちだ。まつ毛は長いし、青い瞳は切れ長だし。銀色の髪はサラサラだ。これで身分は次期教皇候補だと言うのだから意地悪な性格以外は非の打ち所がない。
じっと見つめていた視線に気がついたのかヒースがこちらを振り返る。
「……そんなに人の顔じろじろ見ないでくれる?」
「ご、ごめん、ごめん! それで、ええと、話って?」
「ああ。火の村アグニスのことなんだけれどさ」
「次の南国周遊ツアーで行く?」
「そう。アグニスは中央大陸でもっとも古い村だと言われているんだよね。それは知っている?」
ヒースの質問にセシリーナは頷いた。この世界は南方の土地が起源と伝えられていた。南方の原住民が徐々に町や村を開拓して今の中央大陸が出来上がったと言われているのだ。
ヒースは自分に何を伝えようとしているのだろう。
セシリーナは話の続きを目で促す。ヒースが手を止めた。
「だから、アグニスにはこの世界の起源が記された記録や文献が残っていると思う」
「この世界の起源――……あ!」
ヒースの言わんとしていることを察してセシリーナも手を止める。この世界誕生の根幹に触れる文書を調べることができれば、聖騎士と竜王のことが記されている可能性がある。聖騎士と竜王は何故戦わなければならず、竜王は何故何度も復活するのかも。
ヒースが自分の胸に手を当てる。
「もちろん、僕の出自であるクラーク一族の詳しい記述も書かれているはずだ。僕が何者であるのか、何故あんたが転生者だと知っているのか、何故僕があんたに協力しようと思ったのかがわかると思う」
「そっか。以前ヒースが『この世界の仕組みを変えたい』って言った意味がわかるってことですね?」
「おそらくは」
ヒースが歯にものが挟まったような言い方をする。彼自身もはっきりとはわからないのかもしれない。アグニスに古い文献が残っているかどうか定かではないから。それでもアグニスに行けば近づけるかもしれない。自分たちが今疑問に思っていること、その答えに。
自分の分のポスターを貼り終えたのか、ヒースが踵を返す。
「あんたに伝えたかった話はそれだけ」
「ありがとう。大事なことを伝えに来てくれて。私たちが探し求めている答えが見つかるといいですね」
「うん。僕もアグニスで調べたいことがあるんだ。連れて行ってほしい」
「もちろんです!」
弾けるように笑むと、ヒースも歯を見せてにっと笑い返してくれた。
ああ、彼ってあんなにも少年みたいな素直な笑顔もできるんだな。
不意打ちの彼の表情に、セシリーナは心臓が飛び跳ねてしまうのだった。

