史上初のダンジョン攻略ツアーの開催は、あっという間に中央大陸全土に話題が広がった。あれよあれよという間に我こそはという参加者が集い、事務作業を担当するケルヴィンがてんてこ舞いになるほどだった。大反響とはいえダンジョンはどうしても危険が伴う。そのため、今回のツアーの添乗員を務めるアベルが気を配れる人数を上限にしようということになり、泣く泣く参加者を二十名まで絞った。
そうしてダンジョン攻略ツアー決行日を迎えた今日――出発地である王都の中央広場には参加者である屈強な者たちが集合していた。それはさながら戦地に赴く歴戦に戦士たちのようで、とてもじゃないけれど普通の旅行客には見えなかった。
ダンジョン攻略ツアー御一行の団長……もとい添乗員を務めるアベルが前に出る。
「皆さん、このたびは当社初のダンジョン攻略ツアーにご参加くださり、ありがとうございます!」
「いよっ、大将!」
「いいぞいいぞ!」
広場に集った参加者たちから合いの手が上がる。むさ苦しい男たちが集まったせいで体育会系のノリになっている。参加者たちは主に、騎士、冒険者、傭兵、商人――と様々な職業ではあるものの、皆ダンジョン攻略経験者だ。なるべく余計な危険を減らそうという配慮である。
アベルは参加者たちの顔ぶれを見回す。
「それではさっそくだが水の洞窟に観光に行くにあたって注意事項がある。まずは――」
アベルが説明した内容は、
①水の洞窟は足場が悪いため光を絶やさないこと
②ぬかるんでいるため足元に気をつけること
③魔獣とエンカウントしたら必ず周囲に知らせること
④逐一持ち物を確認すること
⑤ひとりで勝手に判断して突っ走らないこと
等々であった。全員経験者のため細かい説明は不要なのだ。各自の判断に任せるところが多い。
ひと通り説明を終えると、アベルが脇で待機していたヒースを手招きする。
「ヒース、ウェルカムサービスの説明を頼む」
「承知」
ヒースがアベルに代わって前に立つ。それを見計らったケルヴィンが聖水の小瓶を参加者に配り回った。
ヒースが配られた物と同じ小瓶を皆に見せる。
「ただいま皆様のお手元にお配りしているのは、聖水の入った小瓶です」
「聖水……。聖女神教会の物か!」
「左様です。ウェルカムサービスとして本ツアー参加者様全員に配らせていただきます。ダンジョン攻略の際にご活用ください」
参加者の言葉にヒースが頷いている。皆しげしげと聖水の瓶を眺めては、「すげえな」と呟いている。きっと喜んでもらえたのだろう。ほっとしたのも束の間に、ヒースが今度はセシリーナを手招きする。最後の社長挨拶の場面なのだ。
セシリーナは頷くと、ヒースに代わって皆の前に立つ。
「皆様、本日はご参加くださりありがとうございます! 思いっきり楽しみましょう!」
「おおーっ!」
参加者たちが盛大な拍手を送ってくれる。大きなアクシデントがなく、皆の思い出に残る楽しいツアーにできたらと思う。それからウンディーネと契約すること――自分にはその使命もある。
セシリーナは参加者たちの拍手に包まれながら、旅の成功を祈った。
参加者を乗せた幌馬車は王都から水の洞窟に向けて出発した。王都近郊にあるので半刻もあれば到着できる。馬車は洞窟へと続く常緑樹の生い茂る森へ入ってゆく。頭上に絡み合う枝葉から木洩れ日が差し込んでいる。新緑の湿った土の匂いに清々しい気持ちになっていると――やがて山肌の岩壁にぽっかりと口を開けた洞窟が姿を現した。鍛冶師たちが鉱物を採掘するために出入りしているから人の手が入っていないわけではないけれど、それでも辺りはひと気がなく静まり返っていた。
「……ここが、ダンジョン」
「セシィは初めてか? まぁ、用がなけりゃわざわざ来ないよな」
「そう言うアベルはすごく慣れていそうですね」
自分は少なからず緊張しているけれど、アベルは余裕しゃくしゃくだ。同行しているケルヴィンやヒース、他の参加者たちの表情も柔らかい。もしかして一番ダンジョン慣れしていないのは自分なのではないだろうか。
ちなみにダンジョンというのは、魔獣が徘徊する領域のことを指す。洞窟もあれば、遺跡や施設、古城などの形態もあってバリエーションに富んでいる。ダンジョン内には貴重な財宝や神秘の謎が隠されていることが多い。お宝を求めてダンジョンに挑む冒険者をトレジャーハンターと呼んだりもする。
けれども一般人にとっては危険な場所だ。よほどのことがなければ近づかない。令嬢育ちのセシリーナもまた、ダンジョンのことは知識としては知っていてもこうして目の当たりにしたことはなかった。
参加者たちは事前に決めておいた隊列を組む。先頭を担当するアベルが声を張った。
「みんな、竜王が復活したばかりで魔獣たちは気が立っている。くれぐれも油断しないように」
「全員、ウェルカムサービスで渡した聖水を体に振りかけてください!」
ヒースに言われて、セシリーナも胸ポケットにしまい込んでいた聖水を慌てて頭上から振りかける。身体の表面が一瞬だけ銀色に縁どられた気がした。おそらく聖水の守護効果が掛かったのだ。
アベルがマントを翻して洞窟の中へと足を踏み出す。
「みんな、準備はいいか。これより水の洞窟の攻略を開始する。――出発!」
そうしてダンジョン攻略ツアー決行日を迎えた今日――出発地である王都の中央広場には参加者である屈強な者たちが集合していた。それはさながら戦地に赴く歴戦に戦士たちのようで、とてもじゃないけれど普通の旅行客には見えなかった。
ダンジョン攻略ツアー御一行の団長……もとい添乗員を務めるアベルが前に出る。
「皆さん、このたびは当社初のダンジョン攻略ツアーにご参加くださり、ありがとうございます!」
「いよっ、大将!」
「いいぞいいぞ!」
広場に集った参加者たちから合いの手が上がる。むさ苦しい男たちが集まったせいで体育会系のノリになっている。参加者たちは主に、騎士、冒険者、傭兵、商人――と様々な職業ではあるものの、皆ダンジョン攻略経験者だ。なるべく余計な危険を減らそうという配慮である。
アベルは参加者たちの顔ぶれを見回す。
「それではさっそくだが水の洞窟に観光に行くにあたって注意事項がある。まずは――」
アベルが説明した内容は、
①水の洞窟は足場が悪いため光を絶やさないこと
②ぬかるんでいるため足元に気をつけること
③魔獣とエンカウントしたら必ず周囲に知らせること
④逐一持ち物を確認すること
⑤ひとりで勝手に判断して突っ走らないこと
等々であった。全員経験者のため細かい説明は不要なのだ。各自の判断に任せるところが多い。
ひと通り説明を終えると、アベルが脇で待機していたヒースを手招きする。
「ヒース、ウェルカムサービスの説明を頼む」
「承知」
ヒースがアベルに代わって前に立つ。それを見計らったケルヴィンが聖水の小瓶を参加者に配り回った。
ヒースが配られた物と同じ小瓶を皆に見せる。
「ただいま皆様のお手元にお配りしているのは、聖水の入った小瓶です」
「聖水……。聖女神教会の物か!」
「左様です。ウェルカムサービスとして本ツアー参加者様全員に配らせていただきます。ダンジョン攻略の際にご活用ください」
参加者の言葉にヒースが頷いている。皆しげしげと聖水の瓶を眺めては、「すげえな」と呟いている。きっと喜んでもらえたのだろう。ほっとしたのも束の間に、ヒースが今度はセシリーナを手招きする。最後の社長挨拶の場面なのだ。
セシリーナは頷くと、ヒースに代わって皆の前に立つ。
「皆様、本日はご参加くださりありがとうございます! 思いっきり楽しみましょう!」
「おおーっ!」
参加者たちが盛大な拍手を送ってくれる。大きなアクシデントがなく、皆の思い出に残る楽しいツアーにできたらと思う。それからウンディーネと契約すること――自分にはその使命もある。
セシリーナは参加者たちの拍手に包まれながら、旅の成功を祈った。
参加者を乗せた幌馬車は王都から水の洞窟に向けて出発した。王都近郊にあるので半刻もあれば到着できる。馬車は洞窟へと続く常緑樹の生い茂る森へ入ってゆく。頭上に絡み合う枝葉から木洩れ日が差し込んでいる。新緑の湿った土の匂いに清々しい気持ちになっていると――やがて山肌の岩壁にぽっかりと口を開けた洞窟が姿を現した。鍛冶師たちが鉱物を採掘するために出入りしているから人の手が入っていないわけではないけれど、それでも辺りはひと気がなく静まり返っていた。
「……ここが、ダンジョン」
「セシィは初めてか? まぁ、用がなけりゃわざわざ来ないよな」
「そう言うアベルはすごく慣れていそうですね」
自分は少なからず緊張しているけれど、アベルは余裕しゃくしゃくだ。同行しているケルヴィンやヒース、他の参加者たちの表情も柔らかい。もしかして一番ダンジョン慣れしていないのは自分なのではないだろうか。
ちなみにダンジョンというのは、魔獣が徘徊する領域のことを指す。洞窟もあれば、遺跡や施設、古城などの形態もあってバリエーションに富んでいる。ダンジョン内には貴重な財宝や神秘の謎が隠されていることが多い。お宝を求めてダンジョンに挑む冒険者をトレジャーハンターと呼んだりもする。
けれども一般人にとっては危険な場所だ。よほどのことがなければ近づかない。令嬢育ちのセシリーナもまた、ダンジョンのことは知識としては知っていてもこうして目の当たりにしたことはなかった。
参加者たちは事前に決めておいた隊列を組む。先頭を担当するアベルが声を張った。
「みんな、竜王が復活したばかりで魔獣たちは気が立っている。くれぐれも油断しないように」
「全員、ウェルカムサービスで渡した聖水を体に振りかけてください!」
ヒースに言われて、セシリーナも胸ポケットにしまい込んでいた聖水を慌てて頭上から振りかける。身体の表面が一瞬だけ銀色に縁どられた気がした。おそらく聖水の守護効果が掛かったのだ。
アベルがマントを翻して洞窟の中へと足を踏み出す。
「みんな、準備はいいか。これより水の洞窟の攻略を開始する。――出発!」


