雑貨屋は中央広場の一角に大きな店を構えていた。赤銅色の煉瓦造りの建物。店名の書かれた木製の看板が立てつけられていた。セシリーナたちは店の前で馬車を停める。するとすぐに店主と思われる男が飛び出してきた。禿げ頭に緑色のベレー帽を被り、同色のチョッキに白いだぼだぼの膝丈半ズボンを履いている。どれも上質な生地で仕立てられていた。いかにも王都の羽振りのいい商人といった出で立ちだ。
彼はセシリーナたちを手もみして迎える。
「これはこれはようこそおいでくださいました。このたびは当店を取引相手にお選びくださり誠に恐悦至極にございます」
「店主殿、本日はよろしくお願いいたします」
「へえ、もちろんでございます、ケルヴィン様!」
ケルヴィンと店主は既知の仲らしい。挨拶もそこそこに切り上げる。馬車を降りたセシリーナたちは店内の奥にある商談スペースへと招かれた。室内は立派な革張りの長椅子と、分厚い木製のローテーブルが鎮座している。壁沿いにはぐるりとガラス張りの棚が置かれていた。そこには異国の品々がこれ見よがしに飾られている。珍しい動物のはく製、美しい金細工のランプ、細かい彫刻の施された銀食器、それから大粒の宝石のついた宝飾品。目を奪われてしまう。
セシリーナは素直に感嘆した。
「素晴らしいコレクションですね!」
「そうでしょうそうでしょう! 本日の記念にお嬢様のお好きなものをどれかおひとつお譲りいたしましょうか?」
「え!」
「セシリーナ、そういうことは後にして。本題に入らないと」
ヒースに咎められる。
セシリーナはうなだれた。
「す、すみません、つい……」
「失礼いたしました。本題ですがご相談内容は聖水の小瓶でございましたね」
「えぇ。なにか良いアイディアをいただけると助かるのですが」
ケルヴィンが言うと、店主が待っておりましたとばかりに指を鳴らした。
「いくつかサンプルをご用意しております。ご覧ください。――おい、例の物をお持ちしろ!」
「失礼いたします」
トレイを持った従業員が入室してくる。彼は三つのガラス製の小瓶をローテーブルの上に並べる。そのまま一礼して退室していった。
三つの容器をセシリーナたちはしげしげと見つめる。おそらくこれらがサンプルなのだろう。まず一つ目は――シンプルな円柱型のガラス瓶に金色の蓋、瓶の胴の部分には金の縁取りのある青いステッカーが貼ってある。二つ目は、ランプを思わせる丸みを帯びたデザインの小瓶。そして三つ目は一つ目と同じ円柱型のガラス瓶に、こちらはステッカーではなく草花模様の装飾が彫られている物だった。
(これは迷う……)
どれもそれぞれに素敵だ。
ユリアが羽飾りのついた扇子を口元に当てる。
「どちらも甲乙つけがたい素晴らしい出来ですが――この中から一つを選ばせていただくとしたら一択ですわね」
「え、一択!?」
「もちろんですわ!」
驚くセシリーナにユリアがにっこりと笑う。彼女は迷わなかったのだろうか。
ケルヴィンが片眼鏡を押し上げた。
「私もユリアヴェーラ様と同意見かと思います。青いステッカーの小瓶が一番よろしいかと」
「へ、なんで……?」
「簡単なことだよ。ステッカーにワールドツーリスト社のロゴが入れられるじゃない」
「なるほど!」
ヒースの解説にセシリーナは手を打つ。
つい瓶の形にばかり目がいってしまっていた。けれど一番考えるべきところは、我が社の特色を出せるかというところなのだ。ウェルカムサービスは宣伝効果に期待している物だから。
ヒースが青いステッカーの小瓶を手に取る。
「品質も問題なさそうだね」
「それはようございました。そちらのデザインで決定でよろしいですかな?」
店主がセシリーナたちを見回す。こちらは全員満場一致で頷いた。
(みんなに商談に付いてきてもらってよかった……)
自分ひとりではああだこうだと迷ってしまったかもしれない。やはり持つべきものは頼りになる仲間だ。
ケルヴィンが顔を上げる。
「細かい契約内容についてはサージェント商会のほうで請け負わせていただきます」
「ありがとう、ケルヴィン」
「いえ。私の得意分野ですので。後のことは私にお任せください」
ケルヴィンが深々と頭を下げる。
セシリーナたちはお言葉に甘えていったんオルフェ侯爵家に戻ることになった。
彼はセシリーナたちを手もみして迎える。
「これはこれはようこそおいでくださいました。このたびは当店を取引相手にお選びくださり誠に恐悦至極にございます」
「店主殿、本日はよろしくお願いいたします」
「へえ、もちろんでございます、ケルヴィン様!」
ケルヴィンと店主は既知の仲らしい。挨拶もそこそこに切り上げる。馬車を降りたセシリーナたちは店内の奥にある商談スペースへと招かれた。室内は立派な革張りの長椅子と、分厚い木製のローテーブルが鎮座している。壁沿いにはぐるりとガラス張りの棚が置かれていた。そこには異国の品々がこれ見よがしに飾られている。珍しい動物のはく製、美しい金細工のランプ、細かい彫刻の施された銀食器、それから大粒の宝石のついた宝飾品。目を奪われてしまう。
セシリーナは素直に感嘆した。
「素晴らしいコレクションですね!」
「そうでしょうそうでしょう! 本日の記念にお嬢様のお好きなものをどれかおひとつお譲りいたしましょうか?」
「え!」
「セシリーナ、そういうことは後にして。本題に入らないと」
ヒースに咎められる。
セシリーナはうなだれた。
「す、すみません、つい……」
「失礼いたしました。本題ですがご相談内容は聖水の小瓶でございましたね」
「えぇ。なにか良いアイディアをいただけると助かるのですが」
ケルヴィンが言うと、店主が待っておりましたとばかりに指を鳴らした。
「いくつかサンプルをご用意しております。ご覧ください。――おい、例の物をお持ちしろ!」
「失礼いたします」
トレイを持った従業員が入室してくる。彼は三つのガラス製の小瓶をローテーブルの上に並べる。そのまま一礼して退室していった。
三つの容器をセシリーナたちはしげしげと見つめる。おそらくこれらがサンプルなのだろう。まず一つ目は――シンプルな円柱型のガラス瓶に金色の蓋、瓶の胴の部分には金の縁取りのある青いステッカーが貼ってある。二つ目は、ランプを思わせる丸みを帯びたデザインの小瓶。そして三つ目は一つ目と同じ円柱型のガラス瓶に、こちらはステッカーではなく草花模様の装飾が彫られている物だった。
(これは迷う……)
どれもそれぞれに素敵だ。
ユリアが羽飾りのついた扇子を口元に当てる。
「どちらも甲乙つけがたい素晴らしい出来ですが――この中から一つを選ばせていただくとしたら一択ですわね」
「え、一択!?」
「もちろんですわ!」
驚くセシリーナにユリアがにっこりと笑う。彼女は迷わなかったのだろうか。
ケルヴィンが片眼鏡を押し上げた。
「私もユリアヴェーラ様と同意見かと思います。青いステッカーの小瓶が一番よろしいかと」
「へ、なんで……?」
「簡単なことだよ。ステッカーにワールドツーリスト社のロゴが入れられるじゃない」
「なるほど!」
ヒースの解説にセシリーナは手を打つ。
つい瓶の形にばかり目がいってしまっていた。けれど一番考えるべきところは、我が社の特色を出せるかというところなのだ。ウェルカムサービスは宣伝効果に期待している物だから。
ヒースが青いステッカーの小瓶を手に取る。
「品質も問題なさそうだね」
「それはようございました。そちらのデザインで決定でよろしいですかな?」
店主がセシリーナたちを見回す。こちらは全員満場一致で頷いた。
(みんなに商談に付いてきてもらってよかった……)
自分ひとりではああだこうだと迷ってしまったかもしれない。やはり持つべきものは頼りになる仲間だ。
ケルヴィンが顔を上げる。
「細かい契約内容についてはサージェント商会のほうで請け負わせていただきます」
「ありがとう、ケルヴィン」
「いえ。私の得意分野ですので。後のことは私にお任せください」
ケルヴィンが深々と頭を下げる。
セシリーナたちはお言葉に甘えていったんオルフェ侯爵家に戻ることになった。


