「まあ! 聖水を容れる小瓶のデザインをご相談なさりたいのね」
翌日。オルフェ侯爵家の屋敷を訪れたセシリーナはユリアにウェルカムサービスとして聖水の小瓶を検討していることを伝えていた。ユリアはすぐに屋敷の応接室に通してくれた。なんと発案者であるヒースの姿もある。本人は行き渋っていたけれどセシリーナが無理矢理連れてきたのだ。デザインを決めるのに発案者の意見が必要だと思ったから。
「小瓶。つまり聖水を容れる容器のデザインということですわよね」
「軽くて持ち運びしやすい形状がいいんじゃない?」
「旅行で持ち歩くわけですもんね」
ユリアが確認し、ヒースとセシリーナが頷き合う。ユリアは王都での流行に聡いので相談にやって来たというわけだ。彼女ならこれというデザインを考案してくれそうだったから。デザインひとつとっても、シンプル系、可愛い系、上品系、格好いい系、と様々だ。自分たちだけではとてもじゃないけれど決めきれなかった。
侯爵家で出された紅茶を口に運んでいるヒースを、ユリアが横目で見る。
「それにしてもヒース・クラーク様を連れ歩くなんてさすがセシィですわね。ご令嬢たちがどんなに声をかけても袖にされるともっぱらの噂ですのに」
「袖……。ヒースって交友関係狭そうですもんね」
「失礼な」
セシリーナがいたずらっぽく笑い、ヒースが睨みつけている。彼は見目麗しく、身分も申し分ない。きっと彼目当てのご令嬢はたくさんいるのだろう。けれども彼はどちらかというと不愛想な性格だ。女性のお誘いがあっても端から断っているのだろう。異性との付き合いに興味がないとばかりに。
ユリアが小さく笑った。
「ふふふ、けれどもセシィとヒース様はとても仲が良さそう。ヒース様がそんなにも表情豊かに話されているのは初めて拝見いたしましたわ」
「なっ……」
「そうなんですか?」
そうだったら嬉しい。知らず知らずセシリーナはにやにやしてしまう。ヒースが咳払いをする。
「今日はそんな話をしに来たわけではないよ。さっさと本題に入ろう」
「失礼いたしました。セシィ、デザインのことでわたくしを頼ってくださってとても嬉しいです。ですがわたくしも素人の域を出ませんので、ここは専門家のご意見をうかがったほうがよろしいと思ったのです」
「餅は餅屋って言うからね」
ユリアが頭を下げ、ヒースが肩を竦めた。
セシリーナが何かを言う前にユリアが言葉を続ける。
「ですから、前もって専門家をお呼びしておきましたの。――どうぞ、お入りくださいな」
「失礼いたします」
颯爽と入室して来た専門家はよく見知った人物。我が社の従業員ケルヴィンだった。
「ケルヴィン!?」
「まったくお嬢様、水臭いですよ。新商品の仕入れでしたらサージェント商会にご相談くださればよろしいのに」
「ご、ごめんなさい……。そうですよね。ケルヴィンのご実家はその道のプロですもんね」
「灯台下暗しだねぇ」
ヒースが呆れ顔をする。こんなにも身近に商人がいたのにすっかり失念していた。
ユリアが笑う。
「わたくしだけでは心許ないですから、ケルヴィン様にもご協力いただきましょう」
「喜んで」
「そんな商人みたいな口ぶりにしなくても」
おどけるケルヴィンにヒースが突っ込んでいる。ケルヴィンは意外とお茶目な部分があるのだ。
ケルヴィンがセシリーナに頭を下げる。
「お嬢様、さっそくですが本日、雑貨屋の主人に商談のアポイントを取り付けてございます」
「え、もう!?」
「はい。善は急げと申しますので」
(さ、さすがケルヴィン、やることが早い)
セシリーナは頷いて立ち上がる。
「ヒースとユリアも一緒に来てもらってもいいですか?」
「ええ、もちろんですわ!」
「仕方ないなあ」
ユリアが意気込んで立ち上がり、ヒースは面倒くさそうにしながらも快く頷いた。この面子で挑めばきっと商談も上手くいくはずだ。
セシリーナたちは侯爵家の馬車に乗り込み王都の雑貨屋へと馬を走らせた。
翌日。オルフェ侯爵家の屋敷を訪れたセシリーナはユリアにウェルカムサービスとして聖水の小瓶を検討していることを伝えていた。ユリアはすぐに屋敷の応接室に通してくれた。なんと発案者であるヒースの姿もある。本人は行き渋っていたけれどセシリーナが無理矢理連れてきたのだ。デザインを決めるのに発案者の意見が必要だと思ったから。
「小瓶。つまり聖水を容れる容器のデザインということですわよね」
「軽くて持ち運びしやすい形状がいいんじゃない?」
「旅行で持ち歩くわけですもんね」
ユリアが確認し、ヒースとセシリーナが頷き合う。ユリアは王都での流行に聡いので相談にやって来たというわけだ。彼女ならこれというデザインを考案してくれそうだったから。デザインひとつとっても、シンプル系、可愛い系、上品系、格好いい系、と様々だ。自分たちだけではとてもじゃないけれど決めきれなかった。
侯爵家で出された紅茶を口に運んでいるヒースを、ユリアが横目で見る。
「それにしてもヒース・クラーク様を連れ歩くなんてさすがセシィですわね。ご令嬢たちがどんなに声をかけても袖にされるともっぱらの噂ですのに」
「袖……。ヒースって交友関係狭そうですもんね」
「失礼な」
セシリーナがいたずらっぽく笑い、ヒースが睨みつけている。彼は見目麗しく、身分も申し分ない。きっと彼目当てのご令嬢はたくさんいるのだろう。けれども彼はどちらかというと不愛想な性格だ。女性のお誘いがあっても端から断っているのだろう。異性との付き合いに興味がないとばかりに。
ユリアが小さく笑った。
「ふふふ、けれどもセシィとヒース様はとても仲が良さそう。ヒース様がそんなにも表情豊かに話されているのは初めて拝見いたしましたわ」
「なっ……」
「そうなんですか?」
そうだったら嬉しい。知らず知らずセシリーナはにやにやしてしまう。ヒースが咳払いをする。
「今日はそんな話をしに来たわけではないよ。さっさと本題に入ろう」
「失礼いたしました。セシィ、デザインのことでわたくしを頼ってくださってとても嬉しいです。ですがわたくしも素人の域を出ませんので、ここは専門家のご意見をうかがったほうがよろしいと思ったのです」
「餅は餅屋って言うからね」
ユリアが頭を下げ、ヒースが肩を竦めた。
セシリーナが何かを言う前にユリアが言葉を続ける。
「ですから、前もって専門家をお呼びしておきましたの。――どうぞ、お入りくださいな」
「失礼いたします」
颯爽と入室して来た専門家はよく見知った人物。我が社の従業員ケルヴィンだった。
「ケルヴィン!?」
「まったくお嬢様、水臭いですよ。新商品の仕入れでしたらサージェント商会にご相談くださればよろしいのに」
「ご、ごめんなさい……。そうですよね。ケルヴィンのご実家はその道のプロですもんね」
「灯台下暗しだねぇ」
ヒースが呆れ顔をする。こんなにも身近に商人がいたのにすっかり失念していた。
ユリアが笑う。
「わたくしだけでは心許ないですから、ケルヴィン様にもご協力いただきましょう」
「喜んで」
「そんな商人みたいな口ぶりにしなくても」
おどけるケルヴィンにヒースが突っ込んでいる。ケルヴィンは意外とお茶目な部分があるのだ。
ケルヴィンがセシリーナに頭を下げる。
「お嬢様、さっそくですが本日、雑貨屋の主人に商談のアポイントを取り付けてございます」
「え、もう!?」
「はい。善は急げと申しますので」
(さ、さすがケルヴィン、やることが早い)
セシリーナは頷いて立ち上がる。
「ヒースとユリアも一緒に来てもらってもいいですか?」
「ええ、もちろんですわ!」
「仕方ないなあ」
ユリアが意気込んで立ち上がり、ヒースは面倒くさそうにしながらも快く頷いた。この面子で挑めばきっと商談も上手くいくはずだ。
セシリーナたちは侯爵家の馬車に乗り込み王都の雑貨屋へと馬を走らせた。


