聖騎士様と始める異世界旅行事業 ~旅行会社の会社員でしたが異世界に転生したので起業します~

 午後の業務に戻るというヒースと別れ、セシリーナは教会を後にした。中央広場に差し掛かった途端、前方からシュミット伯爵が駆け寄ってくる。

「おおーい、セシリーナ! ここにいたのか、探したぞ」
「お父様!?」

 たしか父は朝から王城で会議だったはずだ。竜王復活に際し、今後の国の方策を早急に練らなければならないためだ。竜王が中央大陸に魔獣をけしかけてくる。それに備えて王立軍の配備の見直しが必要になるだろう。魔獣の被害を受けた町や村があれば物資の供給も必要になってくる。商人ギルドに申し入れて臨時の商隊も用意しなければならないだろう。特にシュミット伯爵領は、竜王の治める島国と海を挟んで向かい合っている。国境の要なのだ。シュミット伯爵やサージェント会長は大忙しだろう。事実、シュミット伯爵は会議を途中で抜け出してきただけのようだった。

「私が今参加している会議なのだが、おまえにも参加してほしくてね。これから時間はあるかい?」
「大丈夫です。国策となった旅行事業に関することですか?」
「そうだ。今後の対策案に、旅行会社の代表者であるおまえの意見も聞きたい。私と一緒に王城に来てもらえるかい?」
「もちろんです」

 シュミット伯爵とセシリーナは足早に王城へと向かう。城門の門兵への挨拶もそこそこに、セシリーナたちはあれよあれよという間に城内の会議室に到着した。シュミット伯爵に続いて入室すると、室内は黒大理石でこしらえた大きな円テーブルが目を引いた。政務関係者や軍務関係者の要人たちがそれをぐるりと囲って座っている。圧倒されてしまうほど壮観な光景だった。

(う、す、すごい圧巻……!)

 この中に自分などが参加するのは場違いな気もしてしまう。けれど気後れしている場合ではない。変に委縮してしまっては重臣たちに不信感を抱かせてしまう。堂々と胸を張らなければ!
 セシリーナはしゃんと顔を上げる。

「国王陛下、ならびに各界の代表者である皆々様、この場にお招きに預かり光栄でございます。わたくしはシュミット伯爵家長女のセシリーナ・シュミットと申します。竜王復活という未曾有の危機に対抗するため、陛下より、このたび国策となった旅行事業推進計画の代表を任されております。今後、お見知りおきください」

 陛下は、うんうん、と満足げに微笑みながら頷いた。他の重臣たちから拍手が起こる。
 前世の接客業経験から、第一印象は極めて重要だとわかっている。相手に好意的になってもらえるかどうかで、今後の仕事の進めやすさが全然違ってくる。営業職の基本だ。
 セシリーナが挨拶を終えて、会議参加者たちが着席する。サージェント会長が口火を切った。

「さっそくですがセシリーナお嬢様、今後の旅行事業の展望をお聞かせ願えますかな?」
「はい」

 セシリーナは立ち上がる。今後旅行ツアーを組んでいくにあたって、フットワークを軽くする必要があると思っていた。旅行事業の拡充を目指して全国を飛び回るために。

「もしよろしければなのですが、この王都に我が社の支店を作らせてはいただけないでしょうか?」

 シュミット村にある事業所は本店として、それとは別に王都に支店を設立したかった。王都に支店があれば全土各地を股にかけて仕事をしやすくなる。それに王都を起点にできれば各地へのツアー日程も組みやすくなる。我ながら良いアイディアだと思う。
 セシリーナは祈る思いで会議参加者たちの反応を待った。