聖騎士様と始める異世界旅行事業 ~旅行会社の会社員でしたが異世界に転生したので起業します~

 城門前に向かう途中で、異変に気付いて王城に向かっていたケルヴィンとヒースと合流する。戦場へと到着すると、たくさんの王国兵たちが迫りくる魔獣の群れと交戦していた。狂暴化した獅子や狼、鳥型の魔獣たちの姿が無数にあり、黒々とした点の集まりに見える。

「すごい数……! これだけの魔獣を相手にするなんて……」
「弱腰になっている場合じゃないよ、セシリーナ。やるしかないんだから」

 ヒースが軽く叱責する。セシリーナたちは頷き合ってから、手の必要そうな場所へとばらけた。アベルは傷ついている兵士たちを鼓舞しながら聖剣を振り上げて最前線に躍り出ていく。剣と魔法の両刀使いであるケルヴィンはアベルの後衛を務めるために彼の背中を追った。治癒魔法が扱えるヒースは救護班のいる一角に加わっていく。セシリーナは魔法を得意とする部隊に合流した。風の精霊シルフを伴って駆けつけたセシリーナに歓声が上がる。

「皆さま、助太刀いたします! ご覧の通り、私は精霊使いです!」
「精霊使い!?」
「は、初めて見た……!」

 王国兵たちはどよめきながらもセシリーナを歓迎する。精霊魔法が見られるかもしれないとあって高揚しているようだった。
 セシリーナは小さく頭を下げて魔法兵たちの中に混じると、前方を見据えた。恐ろしいほどの魔獣の数だった。竜王の多大な影響力を感じさせる。

(たとえ相手がどれだけ強大でも負けるわけにはいかない)

 旅行会社をもっともっと大きくしたい。フィオナのことも助けたい。自分にはまだまだやるべきことがある。こんなところでつまずいてはいられないのだ。
 アベルの聖剣が閃いて、一太刀で何匹もの魔獣を薙ぎ払った。ケルヴィンが炎をまとわせた魔法剣を振るって炎の玉を飛ばす。周囲にはびこる魔獣たちに次々と被弾して倒していった。魔獣たちを圧倒するほどの腕前の二人。勇敢に戦う彼らのおかげで王国兵たちも気持ちが鼓舞されたようだった。自分たちも続けとばかりに勇ましい雄叫びを上げて我先にと魔獣の群れに突っ込んでいく。

(よし、私も負けていられない! 少しでも魔獣の数を減らしていこう!)

 今自分にできる最大の戦い方はなんだろう。精霊使いの自分にしかできないことは――。
 ふと良いことを思いついて、セシリーナはぽんと手を叩いた。傍らのシルフを見上げる。

「シルフ、ちょっと思いついたことがあるんですけど聞いてもらえますか?」
「もちろんですとも、ご主人様! なんなりとどうぞ」
「あの、あなたの魔法で風の壁みたいなものを作り出せる?」
「風の壁……? 規模によってはできると思うけれど」

 シルフが頬を掻く。セシリーナは頷いた。

「あのね、風の壁で魔獣たちを囲って足止めできれば、アベルたちが有利に戦えると思うんだ。今って魔獣側の数が多すぎて多勢に無勢だから、戦力が分散しちゃってる気がするんです」

 要するに、束になって襲ってくる魔獣たちの数をできるだけ減らして、個々に撃破していけるようにする。そうすればこちらの被害を最小限に抑えることができると思うのだ。一極集中というわけである。
 シルフはやんちゃな少年みたいに笑った。

「うんうん、面白いアイディアだね! 風の壁かぁ、いけると思うよ。ただ広範囲の魔法になると思うからご主人様の魔力を多めに使っちゃうと思う。それでもいい?」

 魔力を多めに消費するということは体力を奪われるということに等しい。油断していると頭がくらっときて昏倒するか――さらに魔力の枯渇までいくと体温を奪われて引き付けを引き起こし、最悪は死に至ってしまうかもしれないのだ。

(大丈夫、アベルもケルヴィンもヒースも他の兵士のみなさんも命がけで魔獣と戦っているんだもの。私もこの王都を守るために及び腰になっているわけにはいかない)

 自分の力を信じて、すべてを出しきって戦うのだ。あとで後悔しないためにも。
 セシリーナは両の拳を握って力強くうなずいた。

「大丈夫です! 体力と根性は前の世界の新卒研修で鍛えてもらってありますから! だから私の魔力、景気よく使っちゃってください!」
「いよっ、太っ腹! それでこそボクの自慢のご主人様だよ! ――それじゃあご主人様いくよ!」

 シルフが前方を見据えたと同時に、セシリーナはすっと目を閉じる。自分の身に宿る魔力を全部シルフに渡すように両手を前に突き出した。

「風の精霊よ、どうか私に力を貸して――『風の障壁』!」

 途端、城門をめがけてあちらこちらから襲いかかってきていた魔獣たちを足止めするかのように、吹き上がる突風でできた高い壁が地面から生えた。縦横無尽に攻めていた魔獣は突然現れた風の壁に恐れをなしたようで、たじろぎながら一匹、また一匹と後退を始める。

(やった、上手くいった……!)

 魔獣たちは風の壁に恐れをなしたのか逃げ出すものまでいる。

「すごいな、セシィ! 魔獣の足止めか、よく考えついたな!」
「うん、シルフのおかげ! アベルたちの援護ができてよかった!」

 振り返ったアベルにセシリーナは笑顔を返す。この中央大陸を竜王の手から守る一端を担えた気がして嬉しかった。この世界に女神様に転生させてもらえたこと、その恩返しができた気がしたのだ。
 ケルヴィンが炎をまとわせたままの長剣を一振りする。

「セシリーナお嬢様が魔獣を追い払ってくださいましたので、あとは私たちで残党を片付けてしまいましょう。アベル、援護いたします!」
「――おう!」

 襲いかかって来る魔獣の群れにアベルとケルヴィンが勇ましく突っ込んでいく。飛びかかってきた獅子の牙をアベルが聖剣で受け止め、そのまま力で押し切って獅子の口ごと真っ二つに切り裂いていく。そうかと思えば、狼型の魔獣が俊敏にケルヴィンに襲いかかり、それを上回る華麗さでそれを避けた彼が反動のままに回転して炎の魔法剣で狼の背中から切り結んだ。ふたりの剣舞のごとく鮮やかな剣裁きに魔獣の残党が次々と倒されていく後方。ヒースが全体範囲を指定して治癒魔法をかけている。光の雨のごとくキラキラと舞い降る治癒の光の中心にいるヒースは、あまりにも神々しくて美しかった。

(大人数の怪我を一気に治癒する全体魔法は難しいって聞いたことがある。神官の中でも使える人は限られているだろうに、ヒースはあんなにも楽々使えるんだ)

 普段の彼は飄々としているので忘れがちになるけれど、次期教皇候補でクラーク一族の血筋なのだ。神官としての実力は折り紙付きなのである。

 ――改めて自分はすごい人たちと一緒にいるのかもしれない……。

 自分もできる限り頑張りたいと思う。彼らの仲間として恥ずかしくないように。
 アベルの聖剣が、ケルヴィンの魔法剣が、ヒースの聖魔法が、そしてセシリーナの精霊魔法が飛び、周囲の兵士たちがそれぞれに奮闘して、セシリーナたちは次々と魔獣たちを撃退していった。