「え?」
王城では今夜、セシリーナたちの歓迎会を兼ねた夜会が開かれることになっていた。そこで旅行会社のお披露目と竜王復活の通達を行うことになっている。夜会に出席した諸侯貴族を通して各領地の理解と協力を得ようという手筈だ。中央大陸が一枚岩となることで竜王に対抗するのだ。
そういった名目はあるものの夜会は華やかなパーティという側面もある。そのため出席者は正式な衣装で着飾って男女ペアになって出席する決まりとなっていた。そう、この男女ペアというところが肝である。さきほどの令嬢たちはこぞってアベルのパートナーになりたかったわけだ。彼のパートナー枠は女性にとってとても名誉なこと。なにせ彼はこの世界唯一の聖騎士なのだから。けれどもアベルにはまだ決まった女性はいない。だから女性のパートナーを選ぶときは仕事上の付き合いのある女性に声をかけているらしかった。
(仕事上の付き合いのある女性……あ、そういうことか)
彼は会社の同僚だから自分を誘ってくれたのだ。そこに他意はないのだろう。なぜだろう、そう思うと少し胸がちくちくする。
内心を悟られないようにセシリーナはいつもの笑顔を作る。
「ううん、お恥ずかしながら誰にも誘われていなくて……」
「そうなのか! それは良かった」
ぱっとアベルが顔を輝かせる。そんなに嬉しかったのかな。なんだか嬉しい。
照れてしまって視線を落としていると、アベルも後ろ頭を掻く。
「あ、不躾なこと聞いちまってごめんな。それで今日の夜会、まだ相手が決まっていないのなら俺と参加してほしい」
「え、わ、私なんかでいいの!?」
アベルならお誘いできる女性はごまんといるはず。そこへきて仕事一辺倒の自分などでいいのだろうか。ドレスも宝石も限られた物しか持っていない。自分はあくまで田舎の伯爵令嬢なのだ。恐縮してしまう。アベルが少年のように満面で笑んだ。
「あたりまえだろ。俺はおまえがいいんだ」
「そ、そうですか……」
彼の飾らない真っ直ぐな言葉に胸が熱くなる。自分も彼のパートナーを務めたかった。彼は自分の憧れの人だから。
そうか、自分はきっと彼のことを――。
自分の気持ちの片鱗に気づく。セシリーナは首を左右に振った。自分などが彼を想うなどおこがましい。聖騎士としての彼を支えるひとりになるだけで自分は充分だ。
セシリーナは顔を上げた。
「お誘いありがとうございます。今夜の夜会、ぜひアベルのパートナーを務めさせてください」
「ううーん、どこも変じゃないかなあシルフ」
自室の姿見の前でドレス姿で回ってみる。今晩の夜会のドレスに着替えたセシリーナは、パートナーのアベルが迎えにやってくるのを待っていた。夜空を切り取ったかのような深い紺色のビロードのドレスである。星屑を模したスパンコールが、レースをふんだんに重ねたスカートに散りばめられていた。きっとダンスホールでスカートが翻るたびに光り輝くだろう。ドレスの色に合わせて大きな真珠のネックレスとイヤリングも身に着けている。上にまとめた髪には真珠の髪飾りを垂らしていた。
(なんとも豪華すぎる……)
旅行会社の仕事で急きょ王城に出向いたから自分は夜会用のドレスを持ち合わせていなかった。そのためなんと王妃が急ごしらえで用意してくれたのだ。王妃からのプレゼントだった。
(王妃様から賜ったドレス。私には過ぎたものだけれど一生大事にしよう。家宝にしよう)
薄く化粧を施した自分は普段とはまるで別人のように上品だ。身にまとった夜空のドレスと相まって一端の貴族令嬢に見える。パートナーがあのアベルだということで、侍女たちが気合いを入れてドレスアップしてくれたようだった。しかしドレスもお化粧も申し分ないとはいえ、自分はいつも辺境の田舎に引きこもっているのだ。礼儀作法などもろもろのことは大丈夫だろうか。
今更だけれどアベルの誘いを安請け合いしたのではないかと不安になる。彼にはもっとパートナーとしてふさわしい女性がいたのではないか。自分に彼の相手は務まるのだろうか。
「いけないいけない。いまさら考えても仕様がない。もっと自信を持たないと」
「その意気その意気! うんうん、変なところなんてどこもないよ。とっても綺麗だよご主人様!」
傍らにいたシルフが励ましてくれる。
そのとき部屋の扉が遠慮がちにコン、コン、とノックされた。
(あああああ、きっとアベルだ……!)
どきりと大きく心臓が跳ね上がる。緊張が一気に戻ってきた。
(どうかアベルに少しでも気に入ってもらえますように!)
固く目を閉じてそう強く祈る。セシリーナはドレス姿の身を翻して部屋の扉を開いた――。
王城では今夜、セシリーナたちの歓迎会を兼ねた夜会が開かれることになっていた。そこで旅行会社のお披露目と竜王復活の通達を行うことになっている。夜会に出席した諸侯貴族を通して各領地の理解と協力を得ようという手筈だ。中央大陸が一枚岩となることで竜王に対抗するのだ。
そういった名目はあるものの夜会は華やかなパーティという側面もある。そのため出席者は正式な衣装で着飾って男女ペアになって出席する決まりとなっていた。そう、この男女ペアというところが肝である。さきほどの令嬢たちはこぞってアベルのパートナーになりたかったわけだ。彼のパートナー枠は女性にとってとても名誉なこと。なにせ彼はこの世界唯一の聖騎士なのだから。けれどもアベルにはまだ決まった女性はいない。だから女性のパートナーを選ぶときは仕事上の付き合いのある女性に声をかけているらしかった。
(仕事上の付き合いのある女性……あ、そういうことか)
彼は会社の同僚だから自分を誘ってくれたのだ。そこに他意はないのだろう。なぜだろう、そう思うと少し胸がちくちくする。
内心を悟られないようにセシリーナはいつもの笑顔を作る。
「ううん、お恥ずかしながら誰にも誘われていなくて……」
「そうなのか! それは良かった」
ぱっとアベルが顔を輝かせる。そんなに嬉しかったのかな。なんだか嬉しい。
照れてしまって視線を落としていると、アベルも後ろ頭を掻く。
「あ、不躾なこと聞いちまってごめんな。それで今日の夜会、まだ相手が決まっていないのなら俺と参加してほしい」
「え、わ、私なんかでいいの!?」
アベルならお誘いできる女性はごまんといるはず。そこへきて仕事一辺倒の自分などでいいのだろうか。ドレスも宝石も限られた物しか持っていない。自分はあくまで田舎の伯爵令嬢なのだ。恐縮してしまう。アベルが少年のように満面で笑んだ。
「あたりまえだろ。俺はおまえがいいんだ」
「そ、そうですか……」
彼の飾らない真っ直ぐな言葉に胸が熱くなる。自分も彼のパートナーを務めたかった。彼は自分の憧れの人だから。
そうか、自分はきっと彼のことを――。
自分の気持ちの片鱗に気づく。セシリーナは首を左右に振った。自分などが彼を想うなどおこがましい。聖騎士としての彼を支えるひとりになるだけで自分は充分だ。
セシリーナは顔を上げた。
「お誘いありがとうございます。今夜の夜会、ぜひアベルのパートナーを務めさせてください」
「ううーん、どこも変じゃないかなあシルフ」
自室の姿見の前でドレス姿で回ってみる。今晩の夜会のドレスに着替えたセシリーナは、パートナーのアベルが迎えにやってくるのを待っていた。夜空を切り取ったかのような深い紺色のビロードのドレスである。星屑を模したスパンコールが、レースをふんだんに重ねたスカートに散りばめられていた。きっとダンスホールでスカートが翻るたびに光り輝くだろう。ドレスの色に合わせて大きな真珠のネックレスとイヤリングも身に着けている。上にまとめた髪には真珠の髪飾りを垂らしていた。
(なんとも豪華すぎる……)
旅行会社の仕事で急きょ王城に出向いたから自分は夜会用のドレスを持ち合わせていなかった。そのためなんと王妃が急ごしらえで用意してくれたのだ。王妃からのプレゼントだった。
(王妃様から賜ったドレス。私には過ぎたものだけれど一生大事にしよう。家宝にしよう)
薄く化粧を施した自分は普段とはまるで別人のように上品だ。身にまとった夜空のドレスと相まって一端の貴族令嬢に見える。パートナーがあのアベルだということで、侍女たちが気合いを入れてドレスアップしてくれたようだった。しかしドレスもお化粧も申し分ないとはいえ、自分はいつも辺境の田舎に引きこもっているのだ。礼儀作法などもろもろのことは大丈夫だろうか。
今更だけれどアベルの誘いを安請け合いしたのではないかと不安になる。彼にはもっとパートナーとしてふさわしい女性がいたのではないか。自分に彼の相手は務まるのだろうか。
「いけないいけない。いまさら考えても仕様がない。もっと自信を持たないと」
「その意気その意気! うんうん、変なところなんてどこもないよ。とっても綺麗だよご主人様!」
傍らにいたシルフが励ましてくれる。
そのとき部屋の扉が遠慮がちにコン、コン、とノックされた。
(あああああ、きっとアベルだ……!)
どきりと大きく心臓が跳ね上がる。緊張が一気に戻ってきた。
(どうかアベルに少しでも気に入ってもらえますように!)
固く目を閉じてそう強く祈る。セシリーナはドレス姿の身を翻して部屋の扉を開いた――。


