『君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな』





「はよー、姉ちゃん」
「おはよ、汐琉(しおる)
 目をこすりながら起きて来る、可愛い弟・汐琉(しおる)くん。
 ……寝起き汐琉(しおる)可愛すぎる!
 ……お母さん、見たかっただろうな~。
「なんだよ、朝から」
 いけないイケナイ!
 こんなこと汐琉(しおる)に言ったら、どうなることか……!
「なんでもないよ!……あ、朝ごはんもう出来てるからね」
「うん……。父さんは……?」
「お父さんは、明々後日帰ってくるって言ったでしょ?」
 汐琉(しおる)は「そうだっけ?」みたいな顔をしながらイスに座る。
 記憶力は、良いのか、悪いのか、分からない。
汐琉(しおる)、ジャムなにが良い?」
「……ブルーベリー」
「はーい」
 ジャムを取り出す。
 汐琉(しおる)のブルーベリーと、私のイチゴ。
 たまに汐琉(しおる)が、オレンジジャムが良いとか言い出すから、オレンジとかレモンは用意してある。
 トースターにパンを入れる。
 パンを焼いている間に、サラダとヨーグルトを用意する。
「あ、姉ちゃん。俺、今日はゼリー食べたい」
 ……早く言え。
汐琉(しおる)、ドレッシングは?」
「……マヨネーズ」
 ……ごまドレ手に持ってたのに。
 私は、シーザーサラダドレッシング。
汐琉(しおる)ー!果物用意してー!」
「はーい……」
 汐琉(しおる)はそう言って、冷蔵庫から梨とブドウを取り出す。
 多分、自分用だ。
「姉ちゃん、柿いる?」
「……いらない。私は梨だけでいい」
 そうこうしているうちに、パンが焼ける。
 トースターからパンを取り出し、ジャムをぬる。
 ブルーベリーと、イチゴ。
汐琉(しおる)、サラダとか持ってて。……飲み物は?」
「おっけー。……じゃあ、牛乳で」
 牛乳をコップに注ぐ。
「はい、どうぞ。食べていいよ」
 私は、ココアを作る。
 まあ、牛乳に粉を入れて混ぜるだけなんだけど。
「いただきまーす」
 汐琉(しおる)は、サラダを食べる。
 マヨネーズたっぷりだ。
「姉ちゃーん。父さん帰ってくる日にはさ、なんか、パーティーみたいなのしようよ!」
「……勝手にやれば?」
「はあ⁉姉ちゃんはやらねーのかよ」
「私、別にそんなにお父さんのこと好きじゃないから。……汐琉(しおる)が一人で計画して実行しなよ。少しなら手伝うけど」
 そう。
 お父さんは、私たちの名前を気に入っていない。
 お父さん、名づけはお母さんに任せておいて、後から文句言うなんて、ひどいよね。
 それに、私は気に入っているもん!
 汐琉(しおる)も、最近は「女の子っぽくてやだ」って言ってるけど、昔はすっごく気に入ってたんだよ。
 ……まあ、汐琉(しおる)は気に入ってないのかもしれないけど。
 でも、私の名前に文句言うなんて、許さない!
 それに、お父さん――。
「父さんが、百人一首嫌いだから?」
「……百人一首だけじゃないよ、お父さんが嫌いなものは。……古典が嫌いなの。歴史も嫌いなんだって」
 お父さんは、私とお母さんが大好きな古典を嫌っている。
 そりゃさ、人間なんだから、好き嫌いはあると思うよ?
 でも、妻と娘が大好きなものを、目の前で侮辱するような発言、普通する?
 「おれ、古典好きじゃねーんだよなー。興味ない。やる意味あるか?……っていうか、誰があんなの好きになるんだよ。おかしいだろ」だよ!
 もうホントムカつく!
「確かに、俺も古典好きだしさ~、父さんのこと、気に食わないって思うときもあるけど。でも、血の繋がった家族なんだからさ。ちょっとは割り切って進まないと。……いつか一緒に暮らすってなった時に大変だよ……」
「血が繋がった家族だからって、なんでも許せるわけじゃないよ」
 お母さんが死んだ時だって、お父さんは、そんなに悲しんでいなかった。
 結婚したのは、親同士が決めたものだったらしいから、愛はなかったのかもしれないけど。
 でも、少しで良いから、悲しんでほしかった。
「……ま、いいじゃん。ほら、とりあえず食べようぜ。……パーティーのことはさ、やるとしても、俺一人でなんとかするから」
 はあ……。
 一日の始まり、せっかく汐琉(しおる)に癒されたのに、台無しだ……。