「おっ、周じゃん!こんなとこでなにしてんの?」
「あっ。朝吉くん」
階段にいたのは、同じクラスの、朝吉くん。
「それって、かるた部の……?」
「あ、うん。入らないか、って誘われて……。断ったけど」
驚く顔をする朝吉くん。
「入らないの?」
「うん。……私、もうかるたはしないから」
朝吉くんは不思議そう。
まあ、分からないだろう。
私はもう、かるたはしない。
……同じ過ちを、繰り返さないためにも。
「俺さ、かるた部入りたいんだよね」
……はい?
え?
なんで急に?
「俺、用事があって、遅刻したからさ、かるた大会、参加はできなかったんだけど。見れたんだよね、決勝だけ」
決勝って、私が出てたやつ?
住野先輩と。
「それ見てさ、カッコいいなー、って思って。……周が」
「え⁉私が⁉」
「うん。カッコいいな~って」
へ、へぇ~。
そ、そうなんだ~。
「なんか、ごめんね。私……」
「別にいいけど。……かるた、なんでやらないの?」
そうだよね。
不思議だよね。
でも、言えない。
言う勇気がないから。
「言いたくないなら、いいけどさ」
「……かるた部、見学するの?」
「明日。今日は、早く帰らないといけないから。……なあ、周。明日、ちょっと案内してくれない?部室まで」
「いい、けど……」
なんで私?
同じ学年にも、かるた部の子いるよね?
「……俺、花山、ちょっと苦手なんだよねー。他のクラスのやつに話しかけるのって、めっちゃ勇気いるじゃん?だから、周しか頼れないんだよね」
朝吉くんって、花山さんのこと、苦手に思ってたんだ……。
なんか、ちょっと意外かも。
ピコンッ
スマホの画面が明るくなる。
『ねぇちゃーん!
病院行ってきたよー
特に異常なかったー
大量の薬もらってきた(笑)
今日はちょっと友達の家行ってきます!
姉ちゃんはいつ帰ってくる?』
弟からのメッセージだった。
『OK!私はいつも通りだよ。晩ごはんのリクエストある?』
「誰から?」
「弟。汐琉っていうの」
周 汐琉。
私の弟。
心臓病を患っている。
私の名前・風来夏も、弟の名前・汐琉も、百人一首の歌から取られている。
吹くからに 秋の草木の しをるれば むべ山風を あらしといふらむ
「吹くか」と「しをる」だ。
私は、結構気に入っている。
「可愛い名前だね、汐琉って」
「うん」
ただ、汐琉自身は、あんまり気に入っていないみたい。
女の子っぽいから、らしい。
「……同じ歌から、とってるの?名前」
「え……?あ、うん。まあ、ね」
びっくりした。
朝吉くん、百人一首の歌、知ってたんだ……。
「『吹くからに 秋の草木の しをるれば むべ山風を あらしといふらむ』だよな」
「うん。そうなの」
ちなみに、お母さんは、彰乃という名前だ。
お父さんは、全く関係ない。
名前をつけたのはお母さんだから、多分、好きな歌からとりたかった、とかが理由なんじゃないかな。
自分と名前の繋がりが欲しかったのかもね。
「おーい!周ー!帰ろーぜー」
「おっす!……じゃあな、周」
「うん、またね」
朝吉くんは、同じクラスの友達に呼ばれて、帰っていく。
……私も帰るか。
ピコンッ
『リクエストは……デミグラスソースのハンバーグ!』
『お子ちゃまだね。分かりました』
『お子ちゃまじゃねーし!もう、中学生だし!』
汐琉から、怒った顔をしたスタンプと共にメッセージが送られてくる。
ふふっ、可愛い♥
中学生になっても、中身は全然変わってないなーと思う。
電車がガタガタと揺れる。
汐琉は病気だ。
でも、幸せそう。
……やりたいことができてる。
そんな汐琉を、私はいつも、少し羨ましく思ってる。
……まあ、汐琉が本当にやりたいであろう運動は、できないんだけど。
私は、できるけど"できない"。



