「誰、ですか……?」

正直、こんな姿を見られて恥ずかしい……。
そう思っていると、その男の子は、ポケットから丁寧に折りたたまれたハンカチを取り出し、まいの目元を優しく拭いた。

ポケットにハンカチを戻すと満面の笑みで、彼は言った。

「君の幼馴染の夕陽だよ?まい。小学二年生の時に、海外へ転校したけど。」


波が、私たちの足元を右から左へと駆け抜けて、濡らしていく。

その時に流れた沈黙が、どこか懐かしかった。


私が小学二年生の時、夕陽が好きだった。
夕陽が誰よりも早く学校に来て、予習をしていたり、掃除が丁寧だったり、クラスメイトをよく見ていて、怪我をした子を保健室に連れて行ったり、とても優しかった。

そんな横顔をいつも隣で見ていたから、幼馴染から好きな人に変わるのに、そう時間はかからなかった。


でも、これは、終わった話。

「え……。ゆーひ?」
思わず夕陽に手を伸ばした。
あの時みたいに、夕陽が私の前からいなくなってしまうと、心の何処かで思ったからだ。

夕陽は、その手を、優しく掴んだ。

「なーに?」


あの時とは違う、大きくなった身長と手も、声の低さも、全てが大人びて帰ってきた彼が、少しニヤッとした、切ない笑顔で笑っていた。


急に、涙が溢れた。

捨て切れない願いも、諦めた恋も、全部、涙が流していくように。


夕陽は、そんな私を優しく腕に包み込む。

その気持ちごと抱きしめてくれた気がした。

どうやら、私が周囲を気にして、周りをチラチラと確認していたことを知っていたのだろう。
とってもありがたいけど、逆に目立っている。


「まい、何があったのか、言いたくなかったいいから、言いたくなったら、全部言って。」

幼馴染としての声がけ。
だが、この距離感が心地いい。



夕日の滲む海が、二人の足元を撫でるように流れた。