この夏をまってた。

 私は探していた。
たったひとつの宝物を。

 ローファーを左手に持って、夕方なのにまだ明るい海の波打ち際を、涙目になりながら歩く。
スカートの裾が海水に濡れている。

だが、私は気にならないふりをして歩いた。
思い出さないように。これ以上、悲しくならないように。

遠くで電車が近づいてくるが聞こえた。
 先輩も、もう、あの電車に乗って学校から帰ってきただろうか。

ふとした瞬間に脳裏によぎった考えを、心の奥に押し込めていく。

無意識に胸元で手をぎゅっと握りしめる。
だって、私の好きな人は、私が小さい時から、

「まい」
と、いつも優しく呼んでくれた大好きなお姉ちゃんの、あいねえと付き合っているのだから__。
 

  ***

知ったのは今日の朝だった。

私の好きだった碧山先輩が、私の家に訪ねてきたのだ。
インターフォン越しに聞こえる碧山先輩の声は、少し上ずっていた。


何でこんな朝早くから、家の前にいるのだろう?
一体、誰に用だろう?

疑問に思う事はいくつもあったが、朝から先輩に会えて、私は心を躍らせていた。


でも、そんな感情は、一瞬にして壊れる脆いものだと、私はもう知ってしまっている。


「齋藤愛花さんはいらっしゃいますか?」




私は今日いつもより早く起きてしまったこと、先輩の鳴らしたチャイム音に気づいてしまったことに後悔した。



あいねえを呼びに行ったら、あいねえはこっそりと、昨日告白したら付き合うことになったこと、名前で互いを呼び合っていることを教えてくれた。
少しだけ、あいねえに、嫉妬してしまった自分が恥ずかしくなる。

そんな権利、私にはないはずなのに……。
告白しようとも思わなかったのに。
あいねえを玄関まで連れて来た時、先輩に、
「ありがとう」
と、微笑みながらお礼を言われ、顔が熱くなっているのを必死でごまかした。

それでも、私は平然を取り繕って姉が学校へ出発する姿を見送った。
ぱたりと閉じられた扉に縋って、ただ泣くことしか出来なかった。




扉のガラス越しに見える二人の存在は、到底手に入りそうにない、私の思い描いていた理想そのものに見えた。


「告白……すればよかった……」




  ***

 夕焼けの光をキラキラと反射する水面に、私のぐしょぐしょになった顔が映る。
先輩の面影が、目の奥に貼りついたまま消えない。

家、帰りたくないな……。

もしも、今帰って、あいねえの顔を見てしまったら……。

でも、早く帰らないと、あいねえが心配してしまう。


諦めて家路につこうと思ったその時、ふと、私に背後から声を掛けてきた人物がいた。



「……まい?」

振り返ると、知らない男の子が心配そうな顔で、佇んでいた。