最強スパダリ吸血鬼が私を運命の人だと言って離してくれない!

放課後。


誰もいない静かな教室。


窓から眩しいほどの日差しが机に反射し、大きく長い影を作っていた。


季節はまだ春だというのに今日は朝からやけに蒸し暑い。


(大丈夫だと思って、長袖のシャツを着たのがダメだっかなぁ)



シャツ越しにじんわりと汗が滲んでいてなんとも言えない感覚になる。



(こんなことなら、半袖にすればよかったかも)


暑さに耐えきれず、換気をしようとガラガラと音を立てながら、窓を開ける。


するとブワッとした空気が私の体を包み込んだ。


(うわっ全然意味なかったっ!!)

熱風に耐えられずに慌てて窓を閉めたその時だった。


――先程までジリジリと蒸し暑かった教室内が一気に冷える。


それと同時にどこからかカタリという音が響いた。



急な物音にびっくりして、後ろを振り向く。


そこにいたのは――



綺麗な黒髪に、キメ細やかな白い肌をした転校生。


今朝教室にいた時は、無口で誰かと話そうともしない静かな転校生の男の子が――
私をじっと見つめてゆっくりと口を開く。


「やっと見つけた、俺の運命の人」

声は低いけど、どこか甘い。


まるで耳に触れてくるような……



「お前の血がほしい」

……え? 


――ま、待って。それ私に言ってる?

あたりをキョロキョロと見回してみても私以外誰もいない。


てことは……やっぱり私に言ってるってこと?


――それにしても血がほしいだなんて随分物騒こと言うんだなぁ……


今置かれている状況に戸惑いながらも何かの手違いだと思わずにはいられない。



だって、転校初日で女子からモテモテのかげくんに迫られるなんてありえないんだから。



私は空手道場に生まれた一人娘。小さいころから色んな人と稽古をしてきて、同い年だけじゃなく大人も相手にしてきた。


そんな私が成長すると、クラスの男子からは“姉貴”や"ゴリラ女"などと呼ばれてしまう始末。



だから、「可愛い」とか、「女の子らしい」とか。そんな言葉とは無縁の人生を今まで送ってきたわけ。



――だけど、欲を言うなら私だって、普通の女の子として生きて。普通の女の子として誰かに好かれたい……好きな男の子とデートして、可愛くオシャレしてみちゃったりして。



……なんて。どうせ、可愛こぶったって男子たちから笑われるのがオチだよね。

それに私、男子から全然モテないの。



髪は肩までギリギリあるかどうかの長さだし。


前髪も、朝の稽古のせいで少し乱れちゃっててさ。



腕だって、男子よりちょっと太い……かもしれない。



だからモテない……はずなんだけど。



――今朝転校してきたばかりの"黒瀬かげくん"は、私をからかうこともせず、ただまっすぐ真剣な瞳で見つめてくる。



かと思えば、今度はゆっくりと私に近づき、体温を奪うような冷えた指先で頬を撫でてくる。


(冷たい……)


体温の低さに思わず後ずさると、かげくんは小さく微笑んだ。
 

「冷たかったか? ごめんね」



誰もいない二人きりの教室。


カーテンがフワッと揺れ、窓のすきまから暖かい風とともに、いくつもの桜の花びらが舞いこんできた。


偶然一枚の花びらが私の頭上に止まる。



それを見たかげくんは、すうっと手を伸ばし、優しい手つきで花びらをはらってくれた。



それから少し間を置いて、静かに言葉を続ける。
 
「お前を一目見たときから、ああ、探していたのはこの人だってすぐにわかったんだ」
 
さっきから心臓の音が鳴り止まない。


空手の稽古で鍛えたはずの体が、かげくんの一言でいとも簡単にぐらついてしまった。


どうしてかげくんがこんなにも私を求めてくるのかわからない。



全てが平凡で、取り柄があると言えば力が強いくらいしか思いつかないのに。



大体、私とかげくんは違う人種。住む世界が違う。



クラスメイトから、"ゴリラ女"と呼ばれている私と"王子"と呼ばれているかげくんでは真逆の立ち位置にいるはず。


一生関わることなんてないと思ってたのに。


(どうしてこんなことになったんだっけ……!)


目の前の状況にドキドキしながら、私は必死に朝の光景を思い出す。