目が覚めると、わたしはパラレルワールドに行くための装置の中にいた。
……うそ、どういうこと。さっきまで坂井先輩と話してたのに。
嫌な予感がすると同時に、わたしは装置の外に出る。
「あ……水川」
「さ、早乙女、くん?」
わたしのことを水川と呼び捨てにするあたり、たぶんこの早乙女くんはもとの世界の早乙女くんだ。
……やっぱり、ということはもしかして。
「わたし、もとの世界に戻ってきちゃったの?」
「うん、そういうことだろうね」
「どう、して? せっかく梨央にも会えて、イラスト部の副部長にもなって頑張ろうって、思っていたときなのに……っ」
やだ。涙が止まらない。
でもたぶん、悲しいのはそれだけではない。
パラレルワールドの世界の坂井先輩と早乙女くんが付き合っていたことにショックだった。
「俺もさっき戻ってきたんだ。たぶんパラレルワールドは、もとの世界に帰りたいって少しでも思ったら帰ってきてしまうんだと思う。その様子じゃそうは思えないけど、水川もこの世界に帰りたいって思わなかった?」
「……ちょっと、だけ」
「だからだな」
この世界に、梨央も、坂井先輩もいないのに。
わたしは何故この世界に帰りたいと思ってしまったの?
それに坂井先輩と早乙女くんが付き合っていると知って悲しかったのはどうして?
訳が分からない。自分でも。
「ていうか、水川がパラレルワールドに行ったのを見届けてから俺も行ったんだけど、水川と話せなかったな」
「え……うそ。わたしは会って話したよ。向こうの早乙女くんと」
「え、マジで。じゃあ俺たち違う世界にいたんだな。パラレルワールドってたくさんあるから」
だからわたしはこの早乙女くんには会えなかったんだ。
……早乙女くん、坂井先輩には会えたのかな。
聞いたら悪い気がするけれど、気になってしまった。
「早乙女くん、坂井先輩には会えた?」
「え、どうしてあいつの苗字知って……」
「会ったんだ、坂井先輩に。すごく美人で優しくてびっくりした」
「……なるほどね。俺も会えたよ。高校生になった凪を見れた」
そっか。坂井先輩は、先輩が小六のときに亡くなっている。
だから早乙女くんは高校生になった坂井先輩を見れるなんて夢にも思っていなかったはずだ。
「それより、あんたはどうだった? 幼馴染と会えた?」
「うん、梨央に会えたよ。すごく嬉しかった、全然変わってなくて。もし今も生きていたらあんな感じなのかなって思っちゃった」
「そっか。良かったな」
「うん、でも……」
わたしは言葉に詰まって下を向く。
少しだけモヤモヤした違和感が心のなかに残っていた。
「なに、どした。何か嫌なことがあったとか?」
「そういうわけじゃ、ないけど」
「話してみてよ」
そうだ。早乙女くんは心のなかを見ることができるんだった。
気持ちを隠し通すことはできない。
「……梨央がいたのはね、もちろん嬉しかったんだ。だけど、わたしは梨央に隠れてた。“学年一位”としてこの世界ではみんなわたしのことを慕ってくれるけど、あの世界ではみんな梨央、梨央って言うの。誰もわたしのことを見てなかった」
「“学年一位”として慕われるのは嫌みたいな、そんなふうに思ってなかったっけ?」
……この人、やっぱり心読めるっていうのは本当なんだな。
疑っていたわけじゃないしパラレルワールドが存在している以上早乙女くんの言っていることは信じているけれど、それでも超能力があるってすごいと思った。
「うん、矛盾してるよね。自分でもそう思う。だけど、ちょっとだけ悲しかったの。みんな梨央のことを見てたから」
わたしは、あんな世界を望んでいたはずなのに。
いざそこに行くと、そんなに良い世界ではなかった。
「そうか。まぁ、行って気づいたなら良かったんじゃない? 水川にとってはこの世界が良かったってことでしょ?」
「それ、は」
「……はぁ。面倒くさい人だな。この世界は幼馴染がいないから嫌だ、あの世界は自分が一番じゃないから嫌だ。そういうこと?」
言語化されたら、確かにわたしは面倒くさい人だと思う。
正直に頷いた。
「じゃあ、もう一度あの世界に行って、自分を変えればいいんじゃないの?」
「自分を、変える?」
「そ。あの世界では、あんたの幼馴染がいるからあんたは一番じゃない。だけど行動次第でそれは変えられると思うよ」
……そっか。わたしは、梨央がいるから諦めていた。自分を見てくれている人がいないことを、仕方ないと思っていた。
だけどわたしは、わたしを見てほしい。“学年一位”という理由ではなくて。そのためには行動しなければならないのだ。
早乙女くんといると、いつも大事なことに気付かされる。
「なに、そんな見つめないでくれない」
「え、あ、ごめん」
「もしかして、今の言葉で俺のこと好きになっちゃったとか?」
「は? 違うしっ! しかも早乙女くんは坂井先輩のことが好きなんでしょ!」
言ってしまってからハッと気がつく。
無神経な発言をしてしまった。
「……何でそう思うの?」
「あ、あっちの世界で……早乙女くんと坂井先輩は付き合ってたんだ」
隠すことではないと思い、素直に打ち明けた。
「ふーん。水川が行った世界ではそんなことになってるんだ」
「早乙女くんも……あなたも、坂井先輩のことが好きなの?」
ドクン、ドクンと鼓動が高鳴っているのが分かる。
たかが坂井先輩を好きなのか聞いただけなのに、こんなに胸がドキドキしているのは、本当にどうしてなんだろう。
「さぁね」
「さぁね、って……」
「他の世界の早乙女悠は、俺じゃない。そっくりだけど、俺からすれば別人なんだよ」
確かに、そうだけど。
結局、早乙女くんは坂井先輩を好きなのかどうか知ることができなかった。
「ただいま」
「おかえり」
あれ。お母さん、わたしが二日間家に帰らなかったこと怒らないのかな。
そう思いながら時計を見ると、まだ六時間しか経っていなかった。
もしかしてパラレルワールドに一日いても、こちらの世界には三時間くらいしか影響しないの?
すごい仕組みだなぁ、なんて思う。怒られずに済んで良かった。
「お姉ちゃん、おかえりー」
「有紗、ただいま。またスマホやってるの?」
「だって夏休みだしー」
「夏休みの課題、あるでしょ? また最終日にお母さんとわたしでやるのは勘弁してほしいんだけど」
「分かってるよ! 中学生になったんだし、そのくらい自分でやれるし!」
わたしは受験もあるし、有紗の面倒ばかり見ていられない。
有紗はわたしの忙しさも、気持ちも分かっていないんだろうな。
「ところでさ、お姉ちゃん。小雪先輩と仲良いの?」
「え? 小雪ちゃん? うん、だって同じーー」
同じ部活だから。そう言いかけてやめた。
それはパラレルワールドの世界でのことなのに。わたしったらうっかりしてしまった。
「えっと、そこまで仲良いわけじゃないけど。何で?」
「今日部活あったんだけどさ、小雪先輩が水川先輩元気? って聞いてきたから。たぶん元気だと思いますって答えたよ」
「たぶんって……。そう、なんだ」
この世界では、小雪ちゃんは璃奈ちゃんといるときに一度会話した程度なのに。
どうしてわたしのことを気にしてくれるのだろうか。
疑問に思ったけれど、今はパラレルワールドのことばかり考えていて、それどころではなかった。
……うそ、どういうこと。さっきまで坂井先輩と話してたのに。
嫌な予感がすると同時に、わたしは装置の外に出る。
「あ……水川」
「さ、早乙女、くん?」
わたしのことを水川と呼び捨てにするあたり、たぶんこの早乙女くんはもとの世界の早乙女くんだ。
……やっぱり、ということはもしかして。
「わたし、もとの世界に戻ってきちゃったの?」
「うん、そういうことだろうね」
「どう、して? せっかく梨央にも会えて、イラスト部の副部長にもなって頑張ろうって、思っていたときなのに……っ」
やだ。涙が止まらない。
でもたぶん、悲しいのはそれだけではない。
パラレルワールドの世界の坂井先輩と早乙女くんが付き合っていたことにショックだった。
「俺もさっき戻ってきたんだ。たぶんパラレルワールドは、もとの世界に帰りたいって少しでも思ったら帰ってきてしまうんだと思う。その様子じゃそうは思えないけど、水川もこの世界に帰りたいって思わなかった?」
「……ちょっと、だけ」
「だからだな」
この世界に、梨央も、坂井先輩もいないのに。
わたしは何故この世界に帰りたいと思ってしまったの?
それに坂井先輩と早乙女くんが付き合っていると知って悲しかったのはどうして?
訳が分からない。自分でも。
「ていうか、水川がパラレルワールドに行ったのを見届けてから俺も行ったんだけど、水川と話せなかったな」
「え……うそ。わたしは会って話したよ。向こうの早乙女くんと」
「え、マジで。じゃあ俺たち違う世界にいたんだな。パラレルワールドってたくさんあるから」
だからわたしはこの早乙女くんには会えなかったんだ。
……早乙女くん、坂井先輩には会えたのかな。
聞いたら悪い気がするけれど、気になってしまった。
「早乙女くん、坂井先輩には会えた?」
「え、どうしてあいつの苗字知って……」
「会ったんだ、坂井先輩に。すごく美人で優しくてびっくりした」
「……なるほどね。俺も会えたよ。高校生になった凪を見れた」
そっか。坂井先輩は、先輩が小六のときに亡くなっている。
だから早乙女くんは高校生になった坂井先輩を見れるなんて夢にも思っていなかったはずだ。
「それより、あんたはどうだった? 幼馴染と会えた?」
「うん、梨央に会えたよ。すごく嬉しかった、全然変わってなくて。もし今も生きていたらあんな感じなのかなって思っちゃった」
「そっか。良かったな」
「うん、でも……」
わたしは言葉に詰まって下を向く。
少しだけモヤモヤした違和感が心のなかに残っていた。
「なに、どした。何か嫌なことがあったとか?」
「そういうわけじゃ、ないけど」
「話してみてよ」
そうだ。早乙女くんは心のなかを見ることができるんだった。
気持ちを隠し通すことはできない。
「……梨央がいたのはね、もちろん嬉しかったんだ。だけど、わたしは梨央に隠れてた。“学年一位”としてこの世界ではみんなわたしのことを慕ってくれるけど、あの世界ではみんな梨央、梨央って言うの。誰もわたしのことを見てなかった」
「“学年一位”として慕われるのは嫌みたいな、そんなふうに思ってなかったっけ?」
……この人、やっぱり心読めるっていうのは本当なんだな。
疑っていたわけじゃないしパラレルワールドが存在している以上早乙女くんの言っていることは信じているけれど、それでも超能力があるってすごいと思った。
「うん、矛盾してるよね。自分でもそう思う。だけど、ちょっとだけ悲しかったの。みんな梨央のことを見てたから」
わたしは、あんな世界を望んでいたはずなのに。
いざそこに行くと、そんなに良い世界ではなかった。
「そうか。まぁ、行って気づいたなら良かったんじゃない? 水川にとってはこの世界が良かったってことでしょ?」
「それ、は」
「……はぁ。面倒くさい人だな。この世界は幼馴染がいないから嫌だ、あの世界は自分が一番じゃないから嫌だ。そういうこと?」
言語化されたら、確かにわたしは面倒くさい人だと思う。
正直に頷いた。
「じゃあ、もう一度あの世界に行って、自分を変えればいいんじゃないの?」
「自分を、変える?」
「そ。あの世界では、あんたの幼馴染がいるからあんたは一番じゃない。だけど行動次第でそれは変えられると思うよ」
……そっか。わたしは、梨央がいるから諦めていた。自分を見てくれている人がいないことを、仕方ないと思っていた。
だけどわたしは、わたしを見てほしい。“学年一位”という理由ではなくて。そのためには行動しなければならないのだ。
早乙女くんといると、いつも大事なことに気付かされる。
「なに、そんな見つめないでくれない」
「え、あ、ごめん」
「もしかして、今の言葉で俺のこと好きになっちゃったとか?」
「は? 違うしっ! しかも早乙女くんは坂井先輩のことが好きなんでしょ!」
言ってしまってからハッと気がつく。
無神経な発言をしてしまった。
「……何でそう思うの?」
「あ、あっちの世界で……早乙女くんと坂井先輩は付き合ってたんだ」
隠すことではないと思い、素直に打ち明けた。
「ふーん。水川が行った世界ではそんなことになってるんだ」
「早乙女くんも……あなたも、坂井先輩のことが好きなの?」
ドクン、ドクンと鼓動が高鳴っているのが分かる。
たかが坂井先輩を好きなのか聞いただけなのに、こんなに胸がドキドキしているのは、本当にどうしてなんだろう。
「さぁね」
「さぁね、って……」
「他の世界の早乙女悠は、俺じゃない。そっくりだけど、俺からすれば別人なんだよ」
確かに、そうだけど。
結局、早乙女くんは坂井先輩を好きなのかどうか知ることができなかった。
「ただいま」
「おかえり」
あれ。お母さん、わたしが二日間家に帰らなかったこと怒らないのかな。
そう思いながら時計を見ると、まだ六時間しか経っていなかった。
もしかしてパラレルワールドに一日いても、こちらの世界には三時間くらいしか影響しないの?
すごい仕組みだなぁ、なんて思う。怒られずに済んで良かった。
「お姉ちゃん、おかえりー」
「有紗、ただいま。またスマホやってるの?」
「だって夏休みだしー」
「夏休みの課題、あるでしょ? また最終日にお母さんとわたしでやるのは勘弁してほしいんだけど」
「分かってるよ! 中学生になったんだし、そのくらい自分でやれるし!」
わたしは受験もあるし、有紗の面倒ばかり見ていられない。
有紗はわたしの忙しさも、気持ちも分かっていないんだろうな。
「ところでさ、お姉ちゃん。小雪先輩と仲良いの?」
「え? 小雪ちゃん? うん、だって同じーー」
同じ部活だから。そう言いかけてやめた。
それはパラレルワールドの世界でのことなのに。わたしったらうっかりしてしまった。
「えっと、そこまで仲良いわけじゃないけど。何で?」
「今日部活あったんだけどさ、小雪先輩が水川先輩元気? って聞いてきたから。たぶん元気だと思いますって答えたよ」
「たぶんって……。そう、なんだ」
この世界では、小雪ちゃんは璃奈ちゃんといるときに一度会話した程度なのに。
どうしてわたしのことを気にしてくれるのだろうか。
疑問に思ったけれど、今はパラレルワールドのことばかり考えていて、それどころではなかった。



