イラストクラブが終わり、わたしは梨央と一緒に帰ることになった。
……この世界のわたしはいいな。毎日梨央と一緒に登下校できるんだもんね。
そんなふうに考えてしまう自分が少し嫌になる。
「あ、そうだ、愛音。あとひとり入ったら正式に部活にしてくれるって話覚えてる?」
「え、えっと、ごめん、ちょっと覚えてない……かも」
「ほら、去年イラストクラブをわたしたちが立ち上げたときにさ、五人いればクラブじゃなくて部として認めてくれるって山内先生が言ってたじゃない?」
「あ、あぁ、うん、そういえばそんなこと言ってたね」
山内先生というのは高等部担当の男の先生で、イラストクラブの、部活で言う顧問らしい。
そうか、イラストクラブというのはわたしたちが立ち上げたんだ。でも人数が少ないから、部として認めてはくれなかったということだ。
クラブという名前にも納得がいく。
「高等部のほうで、ひとり入部希望の生徒がおるんだって!」
「えっ、高等部で?」
「そうなの、すごくない!? 今まで後輩しかいなかったから先輩ってなると緊張するけど、山内先生が言うには優しい人なんだって! 明日見学に来るみたいなんだけど、いいよね?」
「うん、もちろん」
すごい。まさか高等部でクラブに入ってくれる人がいるなんて。
梨央の喜びようが目に見えて分かる。
「これで入部してくれたら、イラスト部になるんだねっ」
「そうだね」
梨央の笑顔を数年ぶりに見れて、夢みたいに嬉しかった。
翌日、部活の時間はすぐにやってきた。
高等部の何年生なんだろう。名前はなんて言うのかな。
全然その人のことを山内先生から聞いていないと梨央が言っていたので、ずっと気になっていた。
「梨央先輩、本当に入部希望の人が来るんですか? 何年生?」
「うーん、何年生かはわたしも先生に教えてもらってないから分からないの。でも来るのは確実だよ」
「えー、梨央先輩でも知らないのー。山内のケチー」
璃奈ちゃんも入部希望者について興味を持っている様子だ。
そんなとき、「失礼するよー」と言う山内先生の声と同時に、ガラガラッとドアが開いた。
「お、良かった、四人揃ってるな。改めて入部希望の生徒を紹介する」
すると、ひとりの女の子が入ってきた。
綺麗な黒髪ロングが特徴的で、とても美人だった。
わたしだけでなく、みんなも見惚れているほど。
……この人、もとの世界にもいたかな?
こんな綺麗な人がいたらきっと噂になって、わたしでも知っているはずだけど……。
「坂井、自己紹介を」
「初めまして、坂井凪と言います。絵を描くのが大好きでイラストクラブに興味を持ちました。今日はよろしくお願いします」
ーー坂井、凪さん。
凪さん。なぎ、さん。
まさかだけど、この人が早乙女くんの幼馴染……?
「あ、大事なこと言い忘れちゃった。えっと、高校一年生です」
確か早乙女くんの幼馴染の凪さんは、一個年上と言っていた。だから年齢でいけば、高校一年生。
坂井凪さんも、高校一年生。
凪さんは中学校に入る前に亡くなってしまった。だからわたしはこの人のことを知らなかったのだ。
こんな形で早乙女くんの幼馴染に会えると思っていなかったので、驚いてしまう。
「初めまして、部長の佐藤梨央です! 中学三年生です」
「二年の鈴木璃奈でーす!」
「同じく二年の工藤小雪です」
「さ、三年の水川愛音といいます」
緊張して声が上擦ってしまったけれど、凪さんはにっこりと笑ってくれた。
凪さんは笑顔もかわいらしい。
「ご丁寧にありがとう。わたしね、もう入部しようと思ってるの。だからこれから仲良くしてくれたら嬉しいな」
「ありがとうございます……! あとひとりで部として認めてくれるって話があるんです。だから凪先輩のおかげでイラスト部になると思います! ですよね、山内先生!?」
「まぁ、約束は約束だからな。今日からイラスト部だ」
「え、本当!? わーい、やったね、梨央先輩!」
「璃奈ちゃん、そうだね!」
盛り上がっている梨央と璃奈ちゃんを見て、凪さんはクスクスと笑っていた。
クラブが部になったところで活動内容は変わらないのだけど、山内先生が正式に顧問になってくれた。
「あの、えっと、水川さん?」
「へ」
突然、凪さんに話しかけられた。
綺麗な顔で覗き込まれてドキッとしてしまう。
「す、すみません。どうしましたか?」
「水川さんが副部長なんだよね? 佐藤さんが部長ってことは、必然的に」
「クラブだったので副部長はいませんでした。でも部になったから、副部長決めないといけませんね」
クラブは人数が少ないという理由で、幹部は部長だけだった。
部になったということは、部長と副部長を決めたほうが良いと思った。
「そうなんだね。てっきり水川さんが副部長かと思って。ていうかごめんね、急に質問しちゃって。緊張してる?」
「は、はい、凪さん……坂井先輩が、美人すぎて」
「ふふ、何それ、嬉しい。水川さんのほうがすごく可愛いよ。あっ、水川さんじゃなくて、愛音ちゃんって呼んでもいい?」
「もちろんです!」
「ありがとう、愛音ちゃん」
そう言って笑った坂井先輩の笑顔は、とても眩しく感じた。
可愛いだけじゃなく、性格まで良いなんて。本当に素敵な人だ。
「あの、坂井先輩って……早乙女くんの、幼馴染ですよね」
「あー、悠? そうだよ、悠のこと知ってるの?」
「と、隣の席になって、教えてもらったというか……」
「なるほどね! わたし、母子家庭で、悠が転校するって言うから一緒に転校してきたんだ。悠のご両親がわたしと母も一緒に住んでいいって言ってくれてね。だから今は悠と同じ家に住んでるの」
だから坂井先輩もこの学校に転校してきたんだ。
今は早乙女くんと同じ家に住んでいる。その言葉を聞いて、少し胸が切なくなったのはどうしてだろう。
「悠は無愛想で口数も少なくて冷たいと思うけど、根は結構真面目で優しいんだ。だから悠のことよろしくね、愛音ちゃん」
「こちらこそです」
そう、早乙女くんは本当は真面目で優しい。最近早乙女くんと話すようになって、やっと分かった。
坂井先輩もそういう早乙女くんの良いところを 知っている。幼馴染なら当たり前だけど。
「あ、そうだ。昨日の話の続きしましょ! 凪先輩は、パラレルワールドってご存知ですかっ?」
「パラレルワールド……別世界のことだよね。うん、聞いたことあるよ」
璃奈ちゃんが、坂井先輩にパラレルワールドの話題を振った。
「先輩は行ってみたいと思います?」
「うーん、そうだなぁ……わたしは少し気になるかも。ちょっと行ってみたい気はするよ」
「おー、凪先輩は行ってみたいんですねぇ! わたしも梨央先輩も愛音先輩も、この世界のままが良いなって話しててー。あ、小雪はどう思う?」
「……わたしも、行ってみたいかな」
小雪ちゃんが、少し俯いてそう答えた。
「えー、小雪も! まぁ、わたしはそんなにパラレルワールドのこと信じてないんだけどねー」
「ふふ、璃奈ちゃんっておもしろいね。この部ってみんな個性あって素敵。梨央ちゃんや璃奈ちゃんは元気いっぱいだし、愛音ちゃんや小雪ちゃんは輪をまとめてるし。わたし、やっぱりこの部に入るね」
まさか坂井先輩にそんなことを言われるなんて思っていなくて、びっくりしてしまう。それと同時にとてつもなく胸があたたかくなった。
もとの世界ではみんなわたしのことを“学年一位”としか褒めてくれなかったけれど、坂井先輩はわたしの長所を認めてくれる。それはとても嬉しいことだった。
……こういう先輩のところを、早乙女くんは好きになったんだろうな。
分かっていたはずなのに、何故か悔しかった。
……この世界のわたしはいいな。毎日梨央と一緒に登下校できるんだもんね。
そんなふうに考えてしまう自分が少し嫌になる。
「あ、そうだ、愛音。あとひとり入ったら正式に部活にしてくれるって話覚えてる?」
「え、えっと、ごめん、ちょっと覚えてない……かも」
「ほら、去年イラストクラブをわたしたちが立ち上げたときにさ、五人いればクラブじゃなくて部として認めてくれるって山内先生が言ってたじゃない?」
「あ、あぁ、うん、そういえばそんなこと言ってたね」
山内先生というのは高等部担当の男の先生で、イラストクラブの、部活で言う顧問らしい。
そうか、イラストクラブというのはわたしたちが立ち上げたんだ。でも人数が少ないから、部として認めてはくれなかったということだ。
クラブという名前にも納得がいく。
「高等部のほうで、ひとり入部希望の生徒がおるんだって!」
「えっ、高等部で?」
「そうなの、すごくない!? 今まで後輩しかいなかったから先輩ってなると緊張するけど、山内先生が言うには優しい人なんだって! 明日見学に来るみたいなんだけど、いいよね?」
「うん、もちろん」
すごい。まさか高等部でクラブに入ってくれる人がいるなんて。
梨央の喜びようが目に見えて分かる。
「これで入部してくれたら、イラスト部になるんだねっ」
「そうだね」
梨央の笑顔を数年ぶりに見れて、夢みたいに嬉しかった。
翌日、部活の時間はすぐにやってきた。
高等部の何年生なんだろう。名前はなんて言うのかな。
全然その人のことを山内先生から聞いていないと梨央が言っていたので、ずっと気になっていた。
「梨央先輩、本当に入部希望の人が来るんですか? 何年生?」
「うーん、何年生かはわたしも先生に教えてもらってないから分からないの。でも来るのは確実だよ」
「えー、梨央先輩でも知らないのー。山内のケチー」
璃奈ちゃんも入部希望者について興味を持っている様子だ。
そんなとき、「失礼するよー」と言う山内先生の声と同時に、ガラガラッとドアが開いた。
「お、良かった、四人揃ってるな。改めて入部希望の生徒を紹介する」
すると、ひとりの女の子が入ってきた。
綺麗な黒髪ロングが特徴的で、とても美人だった。
わたしだけでなく、みんなも見惚れているほど。
……この人、もとの世界にもいたかな?
こんな綺麗な人がいたらきっと噂になって、わたしでも知っているはずだけど……。
「坂井、自己紹介を」
「初めまして、坂井凪と言います。絵を描くのが大好きでイラストクラブに興味を持ちました。今日はよろしくお願いします」
ーー坂井、凪さん。
凪さん。なぎ、さん。
まさかだけど、この人が早乙女くんの幼馴染……?
「あ、大事なこと言い忘れちゃった。えっと、高校一年生です」
確か早乙女くんの幼馴染の凪さんは、一個年上と言っていた。だから年齢でいけば、高校一年生。
坂井凪さんも、高校一年生。
凪さんは中学校に入る前に亡くなってしまった。だからわたしはこの人のことを知らなかったのだ。
こんな形で早乙女くんの幼馴染に会えると思っていなかったので、驚いてしまう。
「初めまして、部長の佐藤梨央です! 中学三年生です」
「二年の鈴木璃奈でーす!」
「同じく二年の工藤小雪です」
「さ、三年の水川愛音といいます」
緊張して声が上擦ってしまったけれど、凪さんはにっこりと笑ってくれた。
凪さんは笑顔もかわいらしい。
「ご丁寧にありがとう。わたしね、もう入部しようと思ってるの。だからこれから仲良くしてくれたら嬉しいな」
「ありがとうございます……! あとひとりで部として認めてくれるって話があるんです。だから凪先輩のおかげでイラスト部になると思います! ですよね、山内先生!?」
「まぁ、約束は約束だからな。今日からイラスト部だ」
「え、本当!? わーい、やったね、梨央先輩!」
「璃奈ちゃん、そうだね!」
盛り上がっている梨央と璃奈ちゃんを見て、凪さんはクスクスと笑っていた。
クラブが部になったところで活動内容は変わらないのだけど、山内先生が正式に顧問になってくれた。
「あの、えっと、水川さん?」
「へ」
突然、凪さんに話しかけられた。
綺麗な顔で覗き込まれてドキッとしてしまう。
「す、すみません。どうしましたか?」
「水川さんが副部長なんだよね? 佐藤さんが部長ってことは、必然的に」
「クラブだったので副部長はいませんでした。でも部になったから、副部長決めないといけませんね」
クラブは人数が少ないという理由で、幹部は部長だけだった。
部になったということは、部長と副部長を決めたほうが良いと思った。
「そうなんだね。てっきり水川さんが副部長かと思って。ていうかごめんね、急に質問しちゃって。緊張してる?」
「は、はい、凪さん……坂井先輩が、美人すぎて」
「ふふ、何それ、嬉しい。水川さんのほうがすごく可愛いよ。あっ、水川さんじゃなくて、愛音ちゃんって呼んでもいい?」
「もちろんです!」
「ありがとう、愛音ちゃん」
そう言って笑った坂井先輩の笑顔は、とても眩しく感じた。
可愛いだけじゃなく、性格まで良いなんて。本当に素敵な人だ。
「あの、坂井先輩って……早乙女くんの、幼馴染ですよね」
「あー、悠? そうだよ、悠のこと知ってるの?」
「と、隣の席になって、教えてもらったというか……」
「なるほどね! わたし、母子家庭で、悠が転校するって言うから一緒に転校してきたんだ。悠のご両親がわたしと母も一緒に住んでいいって言ってくれてね。だから今は悠と同じ家に住んでるの」
だから坂井先輩もこの学校に転校してきたんだ。
今は早乙女くんと同じ家に住んでいる。その言葉を聞いて、少し胸が切なくなったのはどうしてだろう。
「悠は無愛想で口数も少なくて冷たいと思うけど、根は結構真面目で優しいんだ。だから悠のことよろしくね、愛音ちゃん」
「こちらこそです」
そう、早乙女くんは本当は真面目で優しい。最近早乙女くんと話すようになって、やっと分かった。
坂井先輩もそういう早乙女くんの良いところを 知っている。幼馴染なら当たり前だけど。
「あ、そうだ。昨日の話の続きしましょ! 凪先輩は、パラレルワールドってご存知ですかっ?」
「パラレルワールド……別世界のことだよね。うん、聞いたことあるよ」
璃奈ちゃんが、坂井先輩にパラレルワールドの話題を振った。
「先輩は行ってみたいと思います?」
「うーん、そうだなぁ……わたしは少し気になるかも。ちょっと行ってみたい気はするよ」
「おー、凪先輩は行ってみたいんですねぇ! わたしも梨央先輩も愛音先輩も、この世界のままが良いなって話しててー。あ、小雪はどう思う?」
「……わたしも、行ってみたいかな」
小雪ちゃんが、少し俯いてそう答えた。
「えー、小雪も! まぁ、わたしはそんなにパラレルワールドのこと信じてないんだけどねー」
「ふふ、璃奈ちゃんっておもしろいね。この部ってみんな個性あって素敵。梨央ちゃんや璃奈ちゃんは元気いっぱいだし、愛音ちゃんや小雪ちゃんは輪をまとめてるし。わたし、やっぱりこの部に入るね」
まさか坂井先輩にそんなことを言われるなんて思っていなくて、びっくりしてしまう。それと同時にとてつもなく胸があたたかくなった。
もとの世界ではみんなわたしのことを“学年一位”としか褒めてくれなかったけれど、坂井先輩はわたしの長所を認めてくれる。それはとても嬉しいことだった。
……こういう先輩のところを、早乙女くんは好きになったんだろうな。
分かっていたはずなのに、何故か悔しかった。



